2005年7月24日

Dr. 田中と12人のネイチャーセンサー

土曜日。
慶應の三田キャンパスへお邪魔した。
田中浩也さんから、春学期の課題「ネイチャー・センスウェア(NATURE SENSEWARE) ver.1」の、期末の講評会へ、ゲストクリティークとして呼んで頂いたのだ。

大学の「課題」の発表に招かれるのは初めてではないし、面白く参加させてもらうんだけど、僕はどうも被評価者を目前にした査定や審判のたぐいが苦手なもんだから、クリティークというのはいささか荷が重くて、いつもぐったり消耗してしまう。

ところが今回は(予想はしていたが)、「講評」というよりも、こんなのを始めてみたので、課題をツカミにして企画会議みたいな議論を共有しましょうよ、とでもいうべき趣旨であって、その気分は部屋に入った途端にわかったため、じつに楽しいひとときを過ごさせて頂いた。お土産を貰ったような気持ちになった「講評会」は初めてだ(というか、いつもこういう心構えで講評会へ臨めばいいのだな、ということがわかった)。ありがとうございました。

課題は、現代の(都市の)自然を見出し、再定義し、それを「感じる」ツールを実際に制作する、というものだ。こんな、演習科目としては途方に暮れるようなテーマに、SFCの学生さんたちは頑張ってよく応え(ようとし)ていた。おおむね、「コンセプト」のプレゼンは飛躍と破綻の嵐だったけれども、実際にプリント基板やLEDやポリバケツがくっつけられた「装置」の作動を目の当たりにすると、「キミの掲げた思想の論理が形として表現されてないじゃないか」みたいな建築の講評じみたコメントはどこかへすっ飛び、おおそうか、こいつの「閃き」はこれか、だったらこういうのもあるんじゃないか?あるいは、こういう別な着眼もアリなんじゃないか?と、アイデアに参加しちゃうような気持ちにさせられる。ジツブツの力だ。荒削りでも、やりたいことがわかる装置は、ではこういうツールがないとき、僕は空の色や明るさで時間を推しはかったり、その日の体調で調理に使う食塩を調整したりするとき、どういう感覚を働かせているのだろう、と、自分の中のネイティブ・センスウェアを見つめ直す契機も与えてくれる。

押し跡がデコボコ残るドアとか、雨で点灯する樹木照明とか、点滅発光する「雪だるまのタマシイ」とか、カイワレダイコンの成長に伴って音程が変わってゆく楽器とか、「呼吸する造花」とか、そのまんま持って帰って使ってみたい作品もあった。

学生さんたちもまた、可変抵抗器やワイヤーやアクリル板をハンダ付けしたりしつつ、「デジタルのアナログな側面」を味わったんじゃないだろうか。しょせん、物事は「地続き」である。田中さんは電子回路の中にも「自然」を見出す、と言っていたけど、それは決して、ある種の人たちが言いそうな「新しい世代の感覚」なんかではないと思う(時代の傾向はあるだろうけれど)。被写界深度が大きいだけだ。

田中さんが集めたゲストがまた冴えた面々で、課題へのコメントもいちいち面白かったし、発表が終わったあとで各ゲストが行った最近の活動紹介のプレゼンが非常に面白かった。東大の佐々木一晋さんの植物スピーカー。UCLAに留学中の斉藤達也さんの、Processingを使ったソフトのデモ。久原真人さんによる「デザイン」という営為の「発生」の事情をを素朴に分解して(久原さんによると『デザイン考現学』)考えてみると、それはいわば「旅芸」なんじゃないか、という考察と、その実践としての、田中さんとコンビ組んだ「tEnt」の活動。他に、「ソトコト」編集部の渡辺さんと、アートライターの金子珠生さんも見えていた。

いや面白かった。興奮してしまった。いいぞSITE-ORIENTED DESIGN LAB。期待大。時間が押しちゃったので、僕は講評会後すぐに帰ったが、あのあとどこかへ繰り出して、さらに盛り上がりたかった。残念。

ところで、講評会のあった南館というのは、三田キャンパスの中でも一番新しい施設で、大成建設による免震構造の建物である。部屋は4階にあったが、夕方の地震をほとんど感じなかった。じつに優れた「ネイチャー・アンセンスウェア」。それでもカタカタとした縦揺れはわかったので、窓の外を見てみたら、民家のTVアンテナが、風に煽られた樹木みたいにゆさゆさ揺れていて、そのうち消防車のサイレンがあちこちから聞こえたりし始めた。免震の内部から大きな地震を経験するのは初めてだったが、なんとも不思議な感じがした。

あと、窓に駆け寄って騒いでるみんなを叱咤して呼び戻した田中先生は、まるで福沢諭吉みたいであった。場所もまさに慶應義塾。

地震のあったとき、僕の母がウチの子供ら2人を保育園へ迎えに行ってくれていたのだが、園児はよく訓練されていて、保育士さんの号令で、みんなひな鳥みたいに机の下へ隠れたそうだ。妻は西日暮里で足止めを食らって予定より4時間余計にかけて帰ってきた。都営線と京王線が復旧していたので、僕はすんなり帰宅できたが、調布へ着いてみると、ちょうど花火大会の終わる時刻で、ホームは「浴衣の海」だった。。。


追記:

せっかくなので、まあちょっと、気になったところを少し。

ほとんどの発表で、わたしにとって「自然」とは、という、「再発見した自然の定義」が、「辞書によると」というような書き出しで始まる、決まり文句のコラージュだったのが惜しかったな。

たとえば、まずは机の上で「都市で自然を感じるシーン」を50くらい挙げたうえで、「そのシーン以外に自然を感じるモノを探しに行く」というようなフィールドワークを一緒にしてみたい、などと思った。

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コメント

地図ナイトでみんな一斉に「海を感じる」と言ったときを思い出しました。
げほげほ。ただいま風邪ひき中ですが、自分の中の自然を感じますね。げほ。

来期はもとながさんもぜひ講評よろしくお願いいたします。

ああ、そうですねえ。
元永さんが居てもよかったような内容だったなあ。じつに。

ちなみに、帰宅してから家族にNSWの話をしたら、一番ウケたのは雪だるまのハートでした。

ぜひぜひ。

「調布センスウェア」なんか作りましょう。
そうだ、時間差散歩しよう。

しましょうしましょう。

湘南台膳を作って食べましょう。

おー。やろうやろう。>湘南台膳。
ハマナスの実とかあるかもしれない。
田中研のみなさん好き嫌いはないですか。
残さず食べないといけないんですよ。良い子は。

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