緑地環境学実習1 2-3
【第2週】明示的、記号的
■レクチャー
前回のまとめ:意味、機能、物体性
・「どのようであるか」ということ:変化しない形態的特徴を、ここでは「物体性」と呼ぶ。
・物体性とはすなわち、既にそこにある「固有性」にほかならない
特に使える概念
・意味→「何であるか」
・形態→「どのようであるか」
・機能→「どのようであるか」がいかに「何であるか」を支えているか
■宿題の発表とコメント
・意図された事物の記号論的な解釈へのヒント
・「座る」行為と外部環境との関係を手がかりに、「意図された事物(広い意味でのデザイン)」や「意図せざる事物」の意味について考える
・座りうる空間/環境
・対象物について、それが「座りうる」と見なされる特徴(要素、様子)は何か」という言い方で記述すること。
・あるものは一瞥で「座る」とわかる。あるものはわかりにくい。
・ひと目でその意味や機能を認識できる「様子」を、「その意味が明示されている」と言おう。
保存用定義:有意識的・自覚的に対象の意味が伝達されること
・たとえばベンチは、座る施設だということを、自他共に了解している(通じるつもりで設置している)
・形態としての明示:「らしさ」にも通じる。期待される機能と様子が一致。「わかりやすい」。
・明示の効用:意味が明示されていることは私たちにどのように作用するか
・本棚を考えよ。すべてを自分だけで把握することは不可能。
・私たちは、周囲の環境に多くの情報を預けて生きている。
・一方で、環境が「意味」で埋まると、それはそれで息苦しい。
・鉄道施設:意味の海。あらゆる「面」を意味あるメッセージで埋めようとするかのような光景。
→駅の場合、物体的特徴と「意味」の乖離が大きすぎる。(伝達する情報が多量で、物体に翻訳できない)
・しかし、駅のホームのベンチはひと目で「座る施設」に見える(ように作られている)
質問:これが「座りうる」に見えるのはなぜか。
■ワーキング
課題:手元にある、採集した「座りうる」事例に対して、「座る」をより強調する操作を提案してください。
■レクチャー
・座りうるように見せる:共感を得るためには、往々にして、広く共有されている「座る」イメージを引き出す必要がある
・「どのようであるか」よりも、「何であるか」という意味が、より明示されている場合を、記号的に明示されていると呼ぼう。
・記号:何らかの意味を示すもの。文字や図形、特定の形態、・・・
・交通標識:記号の典型。
・交通標識が示す物事と、標識の記号には、必然的な関連がない。
・赤色が「止まれ」を指すという意味は、交通ルールを学習した集団にしか通用しない。
記号:
・記号が示す意味と記号との間には、必然的な関連はない。(←重要)
(「何であるか」と「どのようであるか」の関係を思い出そう)
・記号は、それを認知する集団内でしか通用しない。
→限定された集団内のルールである
・より広く通用する記号にするほど、デザインは没個性的になってゆく
→世界中どこでもひと目でわかる意味・・
・一般的に、記号性を強める(認知を『やさしく』する)ほど、固有性は失われる傾向がある。(ありきたりになる)
・共有されていない記号:はずすと意味不明なグラフィックになる。
・しかし一方で、記号はルールである。あくまでそのルールが通じる集団を前提とする。
・「ルール」は自動的に、そのルールが通用するフィールドを想定する。つまり、ルールはそのルールの範囲(社会)を規定する。
質問:「立ち入り禁止」を、記号的でなく実現するには、どのような物体的様態があるか?
・思わず座ることで「ベンチ性」が発見される:転用の余地があった物体
・記号的なベンチは、作る側によって、あらかじめ「意味」が限定されている。
・より記号的であることには良し悪しがある。
・使う側の心理的負担を軽減する一方で、使い方を限定し、関与の可能性を狭める。
・デザイナーはしばしば、「押し付けがましくない、でもわかりやすい」という落としどころを探る。
・記号性の強い形態は、それがあるということによって、その環境に意味が生まれることがある。
・非・記号的な明示が可能なこともある。(アフォーダンス論)
記号的なデザインが施された施設への、解析/接近のコツ:
・記号の意味を解析する(記号が示すもの、またその記号が用いられるという行為が示すメタ記号性)
・その記号が共有される集団を想定する
・物体的形態へ置き換え可能かという検証
■次週までの宿題の出題
これまでの用語による概念の応用編として、街の「境界」に注目する。
課題:付近で、明示された境界を構成する要素を採集し、その境界で意図されている選択と排除の対象を想定し、その機能を維持したまま、形態をよりフレンドリーにする操作を提案してください。
・A4たて使いのフォーマット。
・現況は写真を貼ってもよいが、提案は内容を説明できるスケッチを示すこと。
・説明のテキストを併記する。
→選択と排除の対象。抽出した機能。提案する操作の具体的内容。
■補遺
参考文献:
ちょっと待ってくれ。
【第3週】セキュリティ:境界と排除
■野暮な注意
・デザインの美しさを評価していない。図は、それはまあ上手なほうが心は動かされはするが、それはあくまでも、内容の説明を明確にするための媒体である。
・オリジナリティ(たかだかクラスの中での他の人との違い)を評価していない。誰かと同じ対象でも全く構わないし、うまく言えている説明や描き方は素早く真似をすべき。
・明晰に、論理的な説明ができること。冴えたアイデアだけでは評価しない。
・疑問は共有しよう。時間内に質問してくれると有難い。
■レクチャー
・境界:街の風景をつくる最も大きな要因のひとつ。
・地図:線と面で描かれている。特に線である。面の表現も、輪郭を線で描くことで表している。
・地理的に表現された社会のルールが記載されているのが地図。
・地図上で最も重要な要素として記載されているのは「境界」である。地図の大部分は、土地の「利用/所有区分」が描かれている。
問い:地図には何が描かれているか。それはどのように(何をもって)描かれているか
・地図:平面に配置表現された、社会のルールが記載された図。
・運用上、地図に記されたような、「取り決め」や「ルール」を可視化し、物体的に作用するものにしておくことが有効である。
・こうした、制度や概念を、実空間のモノで作り直すことを「施設化」と言おう。
施設化された境界に課された機能:
・「選択」と「排除」の行使。
・これらをここでは「セキュリティ」と呼ぼう。
問い:写真による事例。何に対して、どのようなセキュリティが作動しているか?
・物体的?何に対してどのように作用するか?
・記号的?誰にどのように何を発信するか?
■宿題の発表とコメント
・発表者の名前
・どこで発見した物件か
・どのような境界が明示されているか
・その境界で実行される選択と排除の対象
・それを実現する要素
・提案、何をどのように操作することで、形態を友好的に見せかけるか
(フレンドリーの解釈には幅があってもよい)
■レクチャー
・セキュリティは、ある領域の内部の秩序を維持するために、出入りする構成要素に対して選別的に働きかけるという作用をする。
・セキュリティは、「内部」を想定する。(内部が構想されることで、セキュリティのコンセプトが浮上する)
・最も規模が大きく、厳しく行われているセキュリティはどこか?(国境?)
・最も身近なセキュリティはどこか?(免疫?消化?)
・内部と外部は相対的。車道と歩道の関係。
・「歩車道境界」をフレンドリーにしようとしたデザイン:歩行者と車両の運行条件を近づける(いわゆる歩車共存)
・町の風景はセキュリティでできていると言っても過言ではない。
・セキュリティはその性格上、どうしても「攻撃的」になる。
・だから、それを見た目で穏やかにするというデザインが求められることがある。
・排除エレメントが目立つ場合、排除エレメントの存在自体がセキュリティの記号となっている。
・ここに、デザインが導入されて、機能を維持しながら記号性を消すという事例が増えている。
・今日、「制御」の機能は不可視化し、意識されなくなってゆく傾向がある。「環境化」。
■ワーキング
宿題で採集した境界のセキュリティを再度解析し、その排除性を非・記号的に下げるデザインを提案してください。
tips:
・排除される要素を、いかに取り込んで共存することが可能か?
・内部と外部の「差」に働きかけることはできるか?
■レクチャー
今週のまとめ:セキュリティを読み解くポイント。
・内部はどこか
・内部に要求される秩序の水準はどのようなものか
セキュリティのデザインの可能性
・装置のデザイン:環境化への加担・内部/外部の相対的差異への挑戦
・「外部」とのつきあいかた:一生ものの課題となりうる
■次週は休み。次々週までの宿題
「植栽」に目を向けてみることにする。たとえば、樹木が植えられていることで、どのような事態が出現しているか?
課題:付近で、何らかの意図が認められる植栽を3つ以上特定し、その植栽について、
1.その植栽があることで、どのような事態が出現しているかを、できるだけ詳しく記述してください。
2.その植栽が果たしている、あるいはその植栽に期待されている機能と効果を抽出し、植物ではない装置や施設で置き換える提案をしてください。
その際に、提案する装置のほうが優れている点を挙げて説明するように。
・A4たて使いのフォーマット。
・現況は写真を貼ってもよいが、提案は内容を説明できるスケッチを示すこと。
・説明のテキストを併記する。
■補遺
対象のスケールを変えて観察してみれば、「セキュリティの総量は不変である」という言い方ができるかもしれない。局所的に緩和したつもりでも、それはそこで見えるところから「追いやった」だけで、全体としてのセキュリティは変わっていないことが多い。住宅をオープンにすることを可能にするのは、しばしば住宅地全体のセキュリティの向上である。これを「ゲーテッドコミュニティのジレンマ」と呼ぼう。
ところで、宿題の「フレンドリーにする」という問いに対して、多くの回答が植栽を施すという手法であったことが興味深い。植栽の「フレンドリーさ」を否定はしないが、私たちは植栽のプロ(の端くれ)である(になる)のであり、できればこう、「クールに熟知している」というのが格好いいんじゃないかと思う。次回はそのヒントの共有を目指す。
今週の参考文献:
・マイク・デイヴィス著、村山敏勝、日比野啓訳「要塞都市LA 増補新版」(青土社、2008)
増補版が出ているとは知らなかった。これは買おう。
・五十嵐太郎 「過防備都市」 (中公新書ラクレ、2004)
「セキュリティの総量不変の法則」を念頭にして読んでみると非常に面白い。
・東浩紀、大澤真幸「自由を考える―9・11以降の現代思想」(NHKブックス、2003)
とても「緑地環境学実習」の参考図書に見えないな。ちなみに、マクドナルドの客用椅子が固いのは長居させずに客の回転数を上げるためだ、というのは都市伝説らしい。
コメント
うんわぁ、千葉大出身者、スゴくなりそう・・・
Posted by 不良講師 at 2009年7月13日 20:19
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