2004年10月28日

在来種生態系 vs. 水稲文化

(社)日本植木協会のかたが職場に来られ、あたらしい企画のお手伝いの依頼を頂いた。緑化産業も「努力中」という感じである。頑張って欲しい。

それはそれとして、ついでに持ってこられた、環境緑化新聞に農大の近藤三雄さんが連載しているコラムの切り抜きが面白かった。「緑化用植物の使用に正しい理解を」というもので、来春施行される「特定外来生物被害防止法」をはじめ、近年、盛り上がっている「生物多様性の保全」をめぐって、「一部の識者が都市緑化、果ては建物の屋上等の緑化建築の場面にまで外来植物の使用を排斥し、在来植物の導入を叫ぶようになった」ことを批判したものだ。

僕は、この在来種/外来種の話題に対しては、一種のナショナリズムというか、議論を拒絶する郷土主義のようなものを感じて警戒してしまう。そういう議論がわき上がる背景については興味があるが、外来種排斥の看板を立てて歩いてくる人とは個人的に会話したくない。

去年のことだけれども、朝日新聞社の雑誌AERA、12月8日号のコラム「明日はどっちだ!」に、「屋上緑化の落とし穴」と題するインタビュー記事が掲載された(わざわざ取ってあった)。語り手は(財)日本生態系協会の会長、池谷奉文という人。

大都市のビルなどで屋上緑化が進んでいます。東京の新しい人気スポットとなっている、最近できたばかりの高層ビルにも、「日本の農の風景」を再現したという触れ込みで、屋上に水田や野菜畑などが作られています。しかし、肝心の水田の周りに生えている草花がマリーゴールドなど外来種であることに気づいた人はいるでしょうか。残念ながら、「日本の自然」とは似て非なる世界です。こんなところに施工した人々の生態系に関する無関心が表れています。緑であれば何でもよいということなのでしょうか。

六本木ヒルズのことだろう。マリーゴールドなんて植わってたっけ?LD誌掲載写真では、土手にジャーマンアイリスが植わっているが(どっちもどっちだが)。

池谷氏の主張は、

  • 屋上緑化が持てはやされている。しかし、推進、供給者が植物の種類に無関心であるため、見栄えのみが追求され、外来種が多く用いられている。
  • 我々がドイツの屋上緑化の事例を日本に紹介したのだが、「生物多様性の維持」という理念が日本では忘れられて形骸化したのだ。
  • 外来の園芸品種が使われるのは、屋上という特殊環境が要求する性能と、生産・流通の都合である。
  • 外来種が多量に持ち込まれ、野生化すると、その土地本来の植生が圧迫されたり、遺伝子汚染が起きたりする。
  • ダムや道路など土木建設の現場でも、緑化に外来種が用いられる。
  • その地域ごとに異なる、本来の生態系をよく理解し、同じ水系内の植物を用いるなどの手法が望ましい。
  • 「緑化」という言葉はよくない。元あった自然を復元するのが目的であるから「自然化」というべきだ。浅はかな緑化はむしろ自然生態系を破壊する。

  • というものである。

    論旨がほとんど(というか完全に)「こじつけ」なのは、もともと言いたいことはひとつしかなくて(日本の本来の自然生態系を守ろう)、屋上緑化についてという題で話せと言われたので、それにかこつけてしゃべった、というところなんだろう。外来種の導入が地域の本来の生態系を圧迫するという主張のために、六本木ヒルズを持ち出すのは的はずれである。たとえば渋谷川水系に固有の「シブヤマツヨイグサ」とかがあって、絶滅の危機に瀕していて、その貴重な群落がヒルズの敷地内にある、とかでもない限り。

    ただまあ、LD誌の記事中、設計者によるこの屋上緑化の「コンセプト」説明文には、水田のある空中庭園で「日本の豊かな水稲文化に触れることができる」とある。これはこれで、マリーゴールドはともかく、僕だってちょっと何か言いたくなるけどな。

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