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オーナメンタルグラスについての若干のメモ

「オーナメンタルグラス」という言葉を初めて見たのは、Peter Walker氏による、ある集合住宅の計画案に記入されていた「仕様」でした。なんじゃそら、と思ったのを憶えています(たしか96年ごろ)。 その後、「プロセス・アーキテクチュア」という雑誌でW. Oehme & J. Van Sweden事務所の特集が組まれ(プロセスアーキテクチュア130号、1996)、アメリカで実践されているオーナメンタルグラスによる修景や造園の実例写真を見て、それが具体的にどういうものかを知って、ひっくりかえるような気分を味わいました。ちょうど、あるリゾートホテルの計画に関わっていたところで、「駐車場をススキで埋める」というアイデアが却下されたころだったのですが、草を用いた大々的な植栽はありうるという励みになると同時に、そういう用途に使える素材としての植物(グラス類)の探索を始めました。 96年当時、仕事で使えるくらいオーナメンタルグラスを多量に供給できるナーセリーは希少でした。東洋グリーンという主に芝を扱う会社が、アメリカから種を輸入して試験的に栽培を始めていました。いま思っても、この会社は早かった。ここで、矮性のパンパスグラス、フェザートップ(後にペニセタム・ギンギツネという名で流通するようになった)、シープフェスキュー、リトルブルーステムなどという数種類をおぼえました。その後、暫くは海外のタネの通信販売を利用して自宅で蒔いてみたりしつつ、Amazon.comに登録してグラス類の本を片っ端から注文したりしていました。 いまの借家に越してきたのは3年半ほど前のことだったのですが、園芸店やホームセンターの店頭にはあまりグラスの種類がなく(後に、山野草の店をあたるとか、通販で苗を購入するとか、工夫をすればそれなりに入手できることを学習。)、道ばたに生えているカゼグサやチカラシバやネズミムギやウシノケグサっぽい草を抜いてきて植えたりしていました。 現在では、輸入や栽培が進み、以前よりはずっと様々な種類が入手しやすくなっています。いくつかのプロジェクトでグラスガーデンを試みる機会もありました。最近では、オフィスビルの屋上庭園のリニューアルでグラスガーデンを作りました。

  • その1
  • その2
  • 種類によっては非常に繁殖力の強いものがあります。これについては慎重を期する必要があります。自庭の中だけでなく、周囲に繁殖してしまう「汚染源」になりうるので。むろんグラスに限ったことではないですが。

    カタログや図鑑を眺めていてふと思ったのですが、グラスの写真はたいてい、草姿の写真が掲載されています。花の写真がおおむね「にじり寄り」構図なのに比べると、グラスのポートレートは株全体の姿や組み合わせを写したものが多いです。これは期せずしてグラスの「好まれかた」を示しているような気がします。植物に対する接し方や庭の作り方において、グラスを好む人は、花を偏愛する「接写レンズ派」よりも、すこしドライな「広角レンズ派」が多いのではないか、などと(もちろん、俺はヤバネススキの、この斑のエッジの色の変わり目の部分がたまらないのだ!というマニアがいるかもしれませんが。いろんな人がいますから)。

  • グラスの本:

    日本語で読めるグラスの園芸図鑑はあまり見あたりません。RHSの「すべての園芸家のための花と植物百科」(塚本洋太郎監訳、同朋舎、1997)にいくつか記載があります(いま数えたらタケ類を含めて41種類ありました。うむ、やるな。でもそのために1万5千円は高いよな)。アボック社の「日本花名鑑」にもぽつぽつ載っています。ただし、「宿根草・1,2年草」の中に埋もれている。いつか「グラス」という項目ができるといいなあ。インテリア雑誌「confort」の「建築を生かす庭」特集記事(No. 44, 2000/10)で、オーナメンタルグラス図鑑もどきを作ったことがあります。その際に、オレゴン州でオーナメンタルグラスのナーセリーを経営しているスティーブ・シュミット氏からスライドを借りたりしてお世話になりました。彼が日本に市場調査に来たとき、通訳のお手伝いをしたことがあるのですが、来日中に9.11テロがあって、ちょっと大変だったのを思い出す。

  • 雑誌:
  • RHSの会員になって、The Gardenを購読していると、最近はよくグラスの記事が載ります。洋雑誌ですが、Gardens Illustratedにはしばしば特集があります。日本の雑誌はガーデニング系よりもむしろ、山野草系の雑誌をウォッチしていると効果的。

  • 入手先:
  • 最近は一般の園芸店でも、ススキの基本的な品種やいくつかのスゲの品種は売っています。
    山野草を売る店が結構グラスの穴場というか、面白いものを売っている。新宿京王デパートの屋上とか、神代植物公園前のなんかマニアックな店とかです。メカルガヤとかオカルガヤとかベニチガヤなんて、和風の渋い鉢から出してみると、「横文字っぽい庭」(!)にも合うものがあります。逆に、ベニチガヤが植えられていた和風の鉢に、帰化植物のヘラオオバコを植えてみたら結構かっこよかった。
    路傍も面白い資源になります。実際、グラスに凝り始めると、道ばたの草が気になってしかたがない。そういう意味では、イネ科やカヤツリグサ科の雑草や、帰化植物が多く記載されている観察図鑑も、いいグラスの図鑑になります。でも、これにハマると、ルーペでスゲの穂をなめるように見て回ることに。
    先述のように、我が家ではカゼグサやチカラシバを植えたことがあります(言っておきますがすごく増えます)。
    まあ要は「組み合わせと配置」で「何を狙うか」ですから、出自がなんであろうと、思うように好きなものを育てればいいわけですが。
    通販では、おぎわら宿根草園を何回か利用しました。ここは比較的いいグラスのラインアップがあります。対応も良心的。 あと、改良園のカタログにたまに変わったやつが載ることがあります。プロ向けでは、先述の東洋グリーンさんには長くお世話になっています。松下興産さんも一時、盛んにお世話になりました。僕自身も、グラスをアメリカから輸入して千葉方面のナーセリーで展開する計画というのを手伝っていますが、ここ数年、オランダから輸入して卸している業者さんも首都圏でいくつか出てきました。植栽業者に「オーナメンタルグラスを扱っているところを探してください」と言えば、なんとかなると思います。「ディズニーシーとか、イクスピアリの外構とかでよく使ってるやつですよ」とかね。工事の前に、圃場に直接、材料検査に赴くことを勧めます。材料を見て意匠を変えたくなることが多いので。


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