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gpot『庭とは何か』について

「庭とは何か」というのは、なんというかすぐには答えにくいものです。

僕らは、ときおり、こういう類の「答えにくい問い」というものに突き当たることがある。例えば「コンパクトディスクとは何か」とか、「ワイングラスとは何か」というような設問であれば、説明の仕方は人によって異なるとはいえ、一応は「正しい答え」がありえます。ところが、これが「愛とは何か」「精神とは何か」というような問いになると難しくなります。これはたぶん、問われている内容が人の世界観というか、人生のありかたに触れるような、そういう種類の問いだからでしょう。

そもそも、「○○とは何か」という問いのたてかたはちょっと根元的です。「ワイングラスとは何か」も、一見簡単そうな疑問に見えますが、ちょっと調べ始めれば、ワイングラスの歴史(ものの本によればメソポタミア時代から、ワインの歴史とともにあったらしいですが)とか、その素材や形の変遷とか、国や民族ごとのワインを飲む行為の文化によるグラスの違いとか、様々な知らなかったことに出くわします。あるいは、ワイングラスとただのグラスの区別は何か、ワイングラスを見てそれがワイングラスだとわかる、ということはどういうことか、そもそも何かを見てそれが「何であるか」を把握するとはどういうことなのか、という方向へ興味を拡げるなら、ギリシャ哲学(どこかにワイングラスのイデアがあって...)から認知心理学(ワイングラスはワインが注がれることをアフォードしている、とか)まで、もう「これで終わり」という点が見えないほどの「考えの拡がり」へ足を踏み入れることになります。

まあ、いつも目に入るもの耳に入るものすべてについていちいち「でもさ、そもそもこれって何だろう?」と考え込んでいてはまともな生活が送れないので、普通は、ワイングラスって何?という問いにはとりあえず「それはワイン飲むための、ガラスのアレだろうがよ」が「正しい」というあたりで留めて置いて先へ進んでいるわけです。

でも僕は、さまざまな物事について、あえていささか執拗に考えてみるのが好きです。特に「庭」については、いつもいつまでもうだうだと考えているのです。これは、ひとつには頭の回転が悪くて、何かについて納得した気になるためには1年も2年もそれを思いめぐらせていることがある(しかも、多くの場合はその後に『実はぜんぜん判っちゃいなかった』ということが明らかになって落ち込んだりするし)、という事情があるのですが、何よりも第一に「庭」が好きだからです。

「庭の一般論」としては、たとえば、庭が「作られるもの」であるという点、特にその産業に注目するならば、「住宅地における庭空間の計画論」とか、プロ/アマチュアに限らず「作り手の表現を鑑賞・批評する」という意味での「デザイン論」、作る技術やコスト、素材などの「施工技術論」、庭を管理するための「維持管理技術論」としても考えることができます。

また、芸術としての側面に注目するならば、庭の歴史を見ることで、人間は庭によって何を表現してきたか、という切り口がありえますし、様々な国や地域の庭が、それぞれの「文化の反映」であるという点に注目すれば、「庭の文化人類学」のような切り口が可能です。

「自然」や「生態系」との関わりにおいて庭を考えることもできますし、住まいの一部としての庭、という観点で見れば、その庭がどのように使われるか、そのためにはどういう空間・場所であるべきか、という庭論がありえます。

あるいは、庭は非常に個人的な「経験」という側面も持っています。「飾り立てて自慢する」「ストレスを解消する」「コレクションの対象」「愛情を持って育む」というような。こういうとき、庭について考え、語ることは一種の「告白」になります。実はこのへんが一番面白いところではあります。

庭に関する言説を読んだり、議論したりする際のポイントは、こうした「庭のどの側面について話しているのか」という点です。これが噛み合っていないと議論は平行線で、「ま、いろいろあるわな。おわり。」になってしまいます。そいういうのがすごく多いのです。

庭って何?ということ、固い言い方をすれば「人間のどのような思想や行為によって『庭』が成立するのか」とか「何を『庭』と呼んできたか/呼んでいるのか」という問いが僕を惹きつけて止まないのは、自分の好きな「庭仕事」を通して、自分自身の世界観や生のありかたや、自分を生かしている自然や文化について考えられるような気がするからだろうと思います。そういう糸口を持っていることは悪くないと思うし、「庭」はそのような「しつこい考察」の対象としても非常に奥の深い、幅の広い面白い題材だと思います。「庭について考え続ける」というのを習慣のように持ち続けることは、僕の脳の活性化のためにはけっこう大切なことなのです。

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