緑地環境学実習1 0-1
「緑地環境学実習1」環境造園学領域担当部分、全7回
【事前課題】
身近にあるもので、それが作られた当初に意図されただろう機能とは「異なる」使われ方をされている(あるいは自分自身でしてしまっている)事例を探し、収集してください。
手順:
1.A4の紙を縦に使って、上半分に事例をスケッチする。
2.スケッチに矢印を記入し、そこに観察できる特徴をメモする。
3.下半分をさらに左右に分け、左側に「当初の意図」を書く。当初の意図とは、それが何として作られたのか、ということ。(例えば、『マグカップ』)
4.その下に、その物の物体的特徴を箇条書きする。できるだけ多く、単純な表現で。
5.右側には、観察された事例を書く。(例えば、『ペン立て』)
6.その下には、「観察された事例を支える特徴」を羅列する。
7.左側の箇条書き(その物の特徴)のうち、何が「観察された事例を支える特徴」となったか、その対応を書き出す。
*上記のうち、6.および7.の意味がよくわからない場合は、ひとまず空欄でもよい。実習時間に解説します。
【第1週】身近な転用
■概説「デザイン」のリテラシー(読解力)
作る(構想する、計画する、建設する、維持管理する)側として、同時にまた享受する側としても、環境への何らかの改変の「意図」を推察し、批評し、応用できること。狙いの背景として、「緑地環境学」、広義の「ランドスケープアーキテクチュア」に特有な「視点」は、すべての場所に、「既に固有な環境がある」という態度がある。固有性、潜在性への接近は、先入観をいかに排除・払拭できるか、にかかっている。この実習でこれへのヒントが掴めればまあよい。
■事前課題の発表とコメント
・事前課題の発表。転用の解析:転用の事例と「意味」と「物体性」の分解。
・「機能」と「形態」。事物の一義的な特徴、「何であるか」と「どのようであるか」の見分け。事物への接近は、「なんであるか」を払拭して「どのようであるか」に触れること。
例:マグカップ
・意味:約束事、共有されているルール(記号)
→マグカップである、ペン立てである、・・・
・形態:「どのようであるか」ということ。意味が変化しても、形態は不変
→円筒形/上が空いて底が閉じている/底が平たい/取っ手がある:片手で持てる/白い、ツヤがある/固い/持てる重さ/厚みがある(断熱)/セラミック(陶器)/角が丸い など
・機能:ルールが要求する意味、形の「理由」(記号による意味づけ)
→液体を保持する/机上に置ける/片手で持ち運べる
変化しない形態的特徴を、ここでは「物体性」と呼ぶ。
物体性とはすなわち、既にそこにある「固有性」にほかならない
転用のプロセスを追うことで見えるもの:
・用途が変化しても物体性は不変
・プログラムは建設物よりもしばしば短命である
・対象が「何であるか」を限定するのは私たちの思い込みである(ことが多い)
■ワーキング
キャンパス内の「転用」を採集する。
・事前課題と同じフォーマット
・「転用されている」に限らず、その可能性を見出せるもの、意味が変質していると思われるものでもよい。
・結果を報告するつもりで表現すること。
*クイックスケッチのインストラクション
採集した「転用」を報告する際のコツ:
「これは○○です」ではなく「これは通常○○と呼ばれるものです」と始めてみる。
「これの、○○としての意味(機能)を生んでいるのは、次のような形態的特徴です・・・」とか。
■レクチャー:たとえば駐車場
駐車場とは何か →駐車場の意味、機能
車両を停めておく施設、車両の保管場所、通路と駐車スペースがある、道路とは区別される施設、・・・
駐車場とされる施設はどのようであるか →駐車場の物体性
硬く舗装されている、平坦面、車両の大きさで等間隔に線が引かれている(グラフィックで成立している施設)・・・
子供:物事の物体性に素直な存在。 →社会的ルールに無知であるために、先入観を抱かない
・意味に自覚的であること
・物体に素直に接近できること
→「デザイン」だけではない、「都市」「建設」に関わる全員が持つべき資質
■次回までの宿題
キャンパスと周辺の「転用」を採集する。
・事前課題のフォーマットの横2倍(A3)
・現状の対象に、転用の可能性を積極的に見出す。
・キーワード「すわる」。
・「座りうる」物体を探す。「座りうるを実現する操作」を想定してもよい。
■その他、実習中に伝達したこと
・実測せよ
・スケッチせよ
■補遺
参考文献:
・中谷礼仁「セヴェラルネス 事物連鎖と人間」(鹿島出版会 、2005)
いきなり読み始めると消化不良を起こすかもしれないが、ちょっと読めば、これが講師が述べた様々な定義や概念のネタであり、喋ってることがほとんどこれのパクリ・・じゃなかった「引用」だとすら言えることに気がつくであろう。つまり、レクチャーの間、居眠りしていたお前らは必読だということです。
・宮本佳明「環境ノイズを読み、風景をつくる。」(彰国社、2007)
フィールドワーク的応用編と建築的実践編。
・10+1 No.37 特集=先行デザイン宣言 都市のかたち/生成の手法(INAX出版、2004)
上記の中谷氏と宮本氏による合同ワークショップと、その過程でうまれた議論を特集した号。10+1誌は廃刊してしまったので、こういう素敵な号は、まだAmazonで買えるうちに(2009年7月現在)入手しておくことを薦めます。
・原研哉「RE DESIGN―日常の21世紀」(朝日新聞社、2000)
この後に出た同じ著者による「デザインのデザイン」(岩波書店、2003)も有名だが、「RE DESIGN」のほうが今回の趣旨としてはわかりやすい。