2008年5月 8日

工場・ダム・鉄塔・水門

BS熱中夜話 テーマ「巨大建造物鑑賞」

これの収録の末席に僕も座った。番組についてはまあ、書き始めると長くなるのでまた後日。忘れないうちにメモしておきたいことを少し。

  • 水門的難問
    収録の最後に、質問や意見を述べる機会があった。僕はその場で、「工場・生産施設や土木系構造物に共通する最大の魅力はリアリティだ」という話をしようと準備していたのだ。のだが、その直前に、佐藤さんが水門プレゼンの一環で出された「典型的水門タイプ」に含まれていたふたつの水門にいささか驚いて、手を上げるのをためらってしまった(あとで後悔した)。

    Das Otterhaus:やっちゃった系水門
    川崎河港水門

    僕の知る限り、水門なんて「リアル」がそのまま物体化したような施設の典型である。ところが、昭和3年の日本では、地域のランドマークであり先端産業の象徴でもあるような施設(水門)を「誇る態度」として、「様式を装う」ことが正しい方法だったのだ。その後、いつしか水門は装飾の対象ではなくなり、長い間、武骨に機能に特化した「飾らない」施設であり続けた。近年、「景観」というような新規なコンセプトに晒されるようになるまでは。

    「ひとまわり」して戻ってきたのか?水門。でも、昭和3年の「様式的装飾」と、近年の「景観配慮型」と、は、デコレーションの「動機」が異なっている。前者の装飾はいわば、水門を都市の「表の施設」に昇格せしめる手順である。「タキシードを着る」みたいなものだ。後者は逆に、わざとカジュアルなTシャツに着替えるみたいに、巨大なエンジニアリングの尺度を隠して土木施設ではない何ものかに擬態しようとするものである。いや、必ずしも「擬態」までしていなくても、少なくとも「単に水門なだけ」よりも親しまれる様子であろうとして、景観や地域性の記号を帯びようとしている。つまり、飾らない土木的施設はそのままでは「親しまれない」と見なされている。

    僕は、佐藤さんのいう「やっちゃった」系は、個人的にじつはけっこう好きである。でもそれは、土木構造物の「土木性」に心打たれる気持ちとはいささか異なる種類の喜悦のように思う。とはいえ、「水門のモダニズム」も、必ずしも(というか明らかに)水門が自覚的にモダンデザインを身にまとうつもりで構築されているわけではないわけで、その意味では、「供給側の意図と無関係な観賞」という態度は共通してはいるのだが。

    あと、箇条メモ。

  • テクノスケープの正当性の主張へのいささかの違和感。話が逆なように思うのだが。
  • 京浜工業地帯と京葉工業地帯のゾーニングの違いの解釈として「東京湾の変容」というのがあるんじゃないかという仮設。
  • 周囲を造成しまくって野暮な法面をいっぱい作らなくても最適な渓谷がたくさんあったころに作られたアーチダムが異様に美しいということ(帰路、電車の中で萩原さんに、この時期の家族連れお勧めダム観光コースをご教示いただいた)。
  • それから、番組のフロアディレクターの、最後の「まだ話し足りない人は近くの居酒屋へでもどうぞ」っていうセリフはなんだ。長時間ご協力ありがとうございましたって丁寧にお礼するくらいできねーのかよ。まったく。

    追記。

    総裁がけっこう厳しいことを書いているが、そしてたしかに、僕も最初に出演したBS2の番組が「熱中時間」だったので、その待遇というか態度の差が余計に強く感じられたのかもしれない、という可能性はあるし、打ち上げはこれをぜんぶ録音しておきたかったくらい希有な機会ではあったので、その楽しさで怒りが半分くらい吹き飛んでしまった効果、というのもあり、とはいうものの、そのぶんを差し引いても実際、総裁の指摘は出演した私たちみんなの気持ちをそのまま代弁しているのだ、ということを記しておく(たとえばダムマニア - BLOG:●中●話の収録をしてきたわけだが。ダムが放流したって - 速報ダム日和)。

    あと、ついでだ。これはさすがに大人げないかと思って、上記の記事から消しちゃったことを追記してしまう:

    ・大山さんが「マイク回すんじゃなくて全員にピンマイク付けたほうがいいんじゃないですか」と(半分本気で)言ったのに対してFDが「もっと予算をもらえればやります(笑)」と言いやがった。予算がねーのは俺たちのせいじゃなくてそっちの都合だろ。マジメに視聴料払ってる俺に向かって言うな。

    ・最初でも最後でも、プロデューサーだかNHKの担当者だかが出てきてみんなにちゃんと挨拶くらいしろ失礼だなまったく。貸しスタジオじゃあるまいし、制作会社に客の対応まで丸投げするな。

  • コメント

    「やっちゃった系」は、見た瞬間吹きだしました。

    発注者のエライさんに、変なのがいると、
    往々にして「やっちゃった系」になるんだな、これが。

    それにしても、この番組は見ねばならぬな。

    「やっちゃった系問題」は継続審議予定。
    番組は、まあ見てくれ。でもどんくらい編集でカットされてるかなあ。俺なんか映ってないかも。

    先週はお世話になりました、takane@ダム日和です。
    収録、確かに食べ物とか30人を10時間近く拘束する体制じゃなかったですよね。今まで1テーマ2本だったみたいだから、それでそのままいっちゃったのでしょうか。
    まあ、なんだかんだで、いい思い出です。打ち上げ本当に楽しかったですし。
    あと、リンクいただいたページなのですが、実は収録とあまり関係なくて…。放流写真を撮ってきたらレンズの水滴が映り込んでてがっくりしたというだけの記事です。
    まあ、放流=マイナスイオン話は以前からちょっとイラッとしていて、収録のときにも出てきたの思い出してああいう書き方になったのは確かなんですが…。
    「やっちゃった系問題」僕も興味あります。そもそも土木は装飾を纏いたがっているんだけど経済性という大きな力がそれを押さえているんじゃないかみたいな事を以前ぼーっと思ってたりしました。