2007年2月12日

緑のスポンジに隠された見知らぬ土地。

今年頭のムーンライティングが二つ、立て続けに終了。

ひとつは、中谷レーニン先生率いる「日本の民家再訪」プロジェクトの、僕が担当することになった回の記録と考察文。10+1の次号に掲載される予定。

当初、必要な文字数を適当に切り分けて、調査の参加者の何人かに割り振って、僕は図版を作る係とかでいいや、「担当」というのはそういうのを決めるのが仕事ってことで、などと安直に考えていたのだったが、胴元にはぜんぜんそういうつもりはなく、おまえが全部書くのだ、とあっさり言い渡され、先月はほとんど頭の中が甲州街道・新宿ー代田橋間で埋まり、いつものごとく精神的・身体的に相当じたばたし、たまに早く帰宅して子供らを寝かしつけているときでさえ、何かお話しをしてくれと長男にせがまれ、
「むかしむかし、あるところにコンワジロウという若者がいました。あるとき、コンワジロウは拡大する都市の端っこを見てみようと思いついて、甲州街道に出かけました」
「トシってなに?」
「・・・そりゃまた、いきなり核心を突いた質問だなミノリ。」
「カクシンってなに?」(以下略)

ところで、話がそれるが、最近、子供らを寝かしつけながらしばしば「いやいやえん」を読むのだが、あらためて読んでみると、淡々と穏やかな語り口なのに、じつは結構ぶっとんだ話である。クジラ狩りのエピソードといい、野生の子熊が保育園に入園してくる話といい、いかにも日常的な保育園の光景から何気なく逸脱していって暴走してゆくスピードがすごい。僕自身が子供のころに、これに魅了されたわけが何となくわかった。

さて、もうひとつの月光ジョブは、秋葉原UDXで開催されているこれのお手伝いであった。
http://www.sfa-exhibition.com/taikin.html

三谷さんからいきなり電話を頂き、こりゃスケジュール的に甲州街道と被るぞ、とは思ったものの、まあ新建築の連載ももう僕はやることないし、大学の演習も1月で終わりだし、声をかけて頂けるうちがハナなので、ぜひ、と安請け合いしたのだった。

当初、僕のプレゼンテーションは、これまで作ったもの(多摩ニュータウン解体撤去計画とか、東京下町水没計画とか)を出せばよい、という話だったのだが、これら、いい加減使い回し過ぎて自分でも飽きてきたし、今回の「ファイバーシティ」にまったく触れないのもあまりに芸がないので、少し、新しいネタを作って持って行くことにした。そして案の定、直前まで何をすることもできず、前日、ほとんど徹夜になってしまった。

「ファイバーシティ」というのは、東大の大野先生らが作られた、「今後、縮小してゆく都市をどう計画するか」という試案である。
http://www.fibercity2050.net/jpn/fibercity.html

いくつかの「戦略」メニューのうち、僕らラ系がもっとも目を引かれるのは、「グリーンフィンガー」という名前の、「東京計画・緑版」のようなマスタープランである。単純にいうと、交通体系を鉄道と徒歩に限ってしまい、駅からの徒歩圏・半径800mに「都市」を回収し、残りの「圏外」を「緑地」にしてしまう、というプランである。

会場にも展示されている、2050年の東京を描いた大きな模型では、建物が集中している鉄道沿線以外の部分には緑色のスポンジが敷き詰められている。そこで、こういうのを目前にすると、普段、その「緑色のスポンジ」の中身を担当している僕らとしては、例の「ラ系の困惑」を抱くわけだ。

「こういうふうに、駅を囲むコンパクトシティの連続として郊外を再編するのです」
「なるほど。それで、この残りの緑色は何になるんでしょうか」
「森です」
「・・・・え?」

とはいえ、あらためて見直すと、僕自身がこういう場で時々提案する「将来像」も、(半ば皮肉を込めているつもりではあれ)「残りを緑色に塗ってしまう」というオチが多い。その「中身」を検討してみるというのは、ラ系の貢献としてはそれなりに生産的ではある。

模型の端っこには調布市も入っているが、僕の現在の自宅も、今後引っ越す先も、両親が住む家も、ぜんぶこの緑スポンジの中に入っている。そこで、この「森」が実際にはどのように維持されうるのか、維持管理費の試算と、維持可能だと思われる面積をざっと試算してみたのだ。なぜなら、計画趣旨には、「圏外に住み続ける住民に、圏外のインフラの維持費を負担してもらう」という怖いことが書いてあるからだ。我が家のノリからして、僕らはこの「圏外」にあえて住む可能性は高いし。

すると、調布市に現存する農地や大学のキャンパスや都立公園などを除いても、常識的な管理費負担を前提にすると、まともに公園的に維持できそうなのは緑色の2割くらいのボリュームであって、残りの8割は「放置」せざるを得ないかもしれない、という結果になった。

僕のプレゼンでは、つい、まあ市街地の廃墟にワイルドな自然が回復してくるという風景もそれはそれで面白いんじゃないでしょうかという画像にして持参したのだが、やっぱりそこが突っ込まれどころになった。

たとえば近年、耕作放棄された農地や薪炭林で植生の遷移が進んでワイルドな状態になってゆく、いわゆる「里山の荒廃」が多く報告されている。もともと農村部のこうした土地利用は、植生の遷移のダイナミズムにいわば便乗して、地面が森になろうとする傾向に介入し編集することで成立している。だから、その介入が停止すると、「もとの自然」に戻ってゆく、とは言えるわけである。

しかし、実際に増えているそうした「空白地」、特に都市近郊にすでに拡がりつつあるこの生態的ギャップに「回復」しつつある「自然」というのは、資材置き場化したり不法投棄の山になったり、モウソウ竹が優占したり、クズなどのマント群落が暴走して林地の高木を枯死させたり、あんまりろくなものになっていないみたいなのである。

しかもそれも、農地という、相対的に「森林」に近い様相の「土地態」においてなのである。一旦、「乾いた平坦な広がり」を半永久的に確保する意図で整備された、完全に宅地化した土地が、破棄されてからいったいどういう「遷移」を見せるか。そのままでは「森」にはならなそうなことは予想できる。いや、1万年くらいのオーダーなら話は別だが、少なくとも2050年には、あんまり牧歌的な風景は出現していなさそうである。

大野先生は、縮小してゆく都市というのはこれまで誰も経験していない事態なのだ、ということを強調されていた。だが、マスタープランを拝見するに、そこに描かれている「都市の部分」はあくまでも「これまで見たことのある」風景に似せてある。

土地の「意味」という観点でみれば都市の本質はじつはそこにあって、「都市化」とは土地を「理解可能な範疇に置き換えてゆくこと」である、と言ってみるとすれば、コンパクトシティ化というのは、「これまで経験したことがない」事態の発生にあたって、先手を打って、都市域を「手の届く範囲」に限定してしまい、少なくともその範囲は「理解/制御」の対象とする、つまり、「これまで誰も経験したことがない」というリスクを、あらかじめ都市の外へ追い出してしまう、という構想だと言える。

そして、それは広大な「蹂躙されたあげくに見捨てられた地表」を作ることでもあるわけである。縮小する都市の「未経験さ」は「圏外」にこそあらわれるし、それは「徒歩で到達できるハッピーな森」にはならない可能性が高いのだ。


と、ここで締めくくればいかにも、「屋外機の目隠し植栽は建築工事ですからね」的なラ系からの批判というか愚痴というか、お約束の着地ではあるのだが、実は僕はこの緑色のスポンジの下に横たわるテラ・インコグニタのことを考えると、やっぱりある種のわくわく感というか、これはこれで面白いと相変わらず思ってしまうのだった。「団塊の世代」問題みたいに、「いずれ広大なリタイア土地が出現する」という設問はなんか、時流にも即しているし、長谷川さんが議論のなかで述べておられたように「維持管理」の「読み替え」はデザインの対象としてこれまであまり論じられなかったわりには重要な題材でもある。

農地や宅地や国分寺崖線や多摩川が入り組む調布を対象に、ファイバーシティをネタにケーススタディするのは面白そうだ。と思いませんか>調布在住の地表系諸姉諸兄。

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コメント

僕も半ば強制的にミタニさんにこの企画(ファイバーシティ)を見せられて(建築の連中にこんなんさせておいていいのか!?、という三谷さんからのメッセージとして僕は受け取りましたが)、石川さんと全く同じ印象を抱きました。あのグリーンを誰がどうやって維持管理するんだ、そのコストはどうするんだと、ラ系であればすぐに思いつくわけです。とは言え、ああいうふうにズバッと絵を描いて社会的にアピールされちゃうと、ヤラレタというか、でもカッコいいじゃん、てな具合で図面が一人歩きしちゃうわけですよね。そのへんやはりうまいなぁと思います。

今後ラ系的には自然な植生遷移を取り込んだかなりの粗放管理が可能なグリーン(樹林や農地)の存在形態についてつっこんだ研究が求められると思います。この提案ではグリーンは「余地」というニュアンスが強いですが、非常時や災害時の環境インフラ、サブインフラ(それからもちろん生態的ネットワークとか風の道とか)という位置づけをもう少し与えて、限られた公共投資を振り分ける必要があると思います。水系や地形などの環境構造をうまく生かすことも依然重要な視点であり続けると思います。

それから、やっぱり鉄道インフラを前提とせざるを得ないんでしょうか。確かに道路よりは現実的だと思いますが、それでも鉄道に沿ってリニアに市街地が展開するというのは、何というかありきたりじゃありませんか。鉄道とグリーンは共存できないんでしょうか。また、郊外においても「宅地は今後も広くならない」という前提ですが、郊外の住宅地が都心のそれとこのまま差別化されないとすると、早晩、郊外は都心との競争力を失うであろうというスタディはたくさんありますよね。提案のように、今より高密度化するとなるとなおさらです。

つまり縮小するとは言っても、沿線の市街地を提案のようにリニアに存続させられるかは微妙なところなんじゃないでしょうか。住宅地をぶら下げられる駅とそうじゃない駅の仕分けが今後相当露骨に現れてくるような気もします。そう考えると僕はやはり都心と農村とは異なる郊外ならではの空間イメージ(ミドルランドスケープ)をちゃんと描く必要を感じています。

調布でのケーススタディ、ぜひ造園学会分科会でやっていただけませんでしょうか?

そうか、そうしましょう。
学会の口頭発表に使い回そう。

UDX、行きたいなあと思う回が何回かあったんですけど、17:00-ってのが非常に行きづらい時間帯で、全然行けずじまいです。
年末に名護市庁舎を見たんですけど、
http://minken.net/mt/archives/IMG_7367.jpg
何かがハミ出しそうな感じがいいなあと思っちゃうんですどうしても。刈る人や掃除する人は大変そうですけど。

すげー。
アンコールワットかと思った。

ご無沙汰をしております。
調布でのスタディの際はぜひ、お声を掛けていただけますと幸いです。

展覧会を見ずにどうこう言う資格はありませんが、シュリンキングシティという議論のなかで、どうしてファイバーシティなのか?というのが素朴な疑問です。
ソリア・イ・マータの「線状都市」を出すまでもなく、ファイバーシティっていうのは、理想都市のひとつのかたちとしてあり続けるものであって、人口が減少するから都市再編が必要だっていうコンテクストからだけなら、東京緑地計画のようなグリーンベルト計画の復活や、やっぱりコルビュジェのタワー・イン・パークだとか言う理想像も同時に存在していて良いような気がします。
その上で、理想都市のかたちとしてファイバーシティに優位性があるのかどうか。。。

昨年クリチバへ行きましたが、ここはまさにファイバーシティで、バス交通と高度土地利用が都市軸に集中しています。(計画上は理解していたつもりですが、行ってみるとまた違った感動です)この最大の利点は大インフラを軸線状に集中できる→その維持管理の効率化だろうと思いますが、東京をいまさらこのようにつくり変えるのは、大変な負荷のようにも思えます。

どこかをみどりにどこかを再都市にという線引きを考え直すのであれば、東京の現状からすれば、密集市街地を全部緑にすることで、(環七あたりに)東京環状緑地ができて、その内側がコンパクトシティだという方が効率的ではないかと思います。そのほうが、木下先生のおっしゃるような都心と郊外の差別化も図りやすいでしょうし。
(こんな内容を書くつもりではなかったんですが、つい書いてしまいました。すみません。。。)

多摩川や崖線はすばらしいファイバーだと思いますし(その間に住んでいるってのは功なのか罪なのか)、都市農地の今後にも興味があります。いずれにしても、維持管理が大変というような受け身のみどりという印象から脱却して、楽しくて皆で利用できるみどりが広がるというイメージを(建築とは違うリアリティを持って)描けるようなことができると良いなと思います。

櫛の歯が欠け落ちるみたいに「粗い目のファイバー」になってゆく郊外を都営スタイルで制覇する調布の将来像を描こう。これは面白いぞ。学会に向けてやろーよ調布市民。

「学会に向けてやろーよ」は軽い響きなのか重い響きなのか判断いたしかねますが、、、微力ながらご一緒させて頂けますと光栄です。まちづくりの会とはリンクしたりしないのでしょうか?まずは、週末にUDXを見て参ります。

是非よろしくお願いいたします>>調布市民どの

積み残しになっているお約束(HF研究会レポート)を思い出しました。これを機にぜひそちらも>>調布市民どの

「やろーよ」は軽くも重くも速くもなく、そのまんまの意味です。何気ない一言に言外の含みを持たせるような捻りの聞いた器用なことはできないので、言ったことはそのまんま。俺は。つぎはいつ、打ち合わせましょうか>スコ先生。

ファイバーシティ見てまいりました。と言っても太田さんのトークインを聞きに行ったというのが正確なので、展示はあまり見れていませんが。。。「都市を楽しくするサービス」はとても興味深く、ファイバーシティのような都市改変とどのように繋げていけば良いかを考えさせられます。

先生、レポートを覚えてくださっていたとは!ぜひよろしくお願いします。

いいなあ。太田さんのトーク聞きたかった。

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