よりによってそっちの軍門に下る、の記。
引っ越すことにした。
ここ数年、家族の増加に伴い、現在の借家が面積的に限界を超えつつあったことと、積極的に探し続けていたわけではなかったものの、たまたま散歩の途中で、ここなら借金しても住んでも良いかもしれない、と思わせる立地と地形・環境の宅地を見つけた、というのがきっかけで。
敷地は、武蔵野台地の縁、国分寺崖線が深大寺付近で谷状に入り込んだところに形成されている半島状の台地上。そこに、新規に造成した道路に旗竿敷地が鈴なりに配置された、絵に描いたみたいな「ミニ開発」がなされている。販売上は「建て売り」ではないが、事実上「建築条件付き」のような売り方で、土地だけ購入すると値段がけっこう高くなる。
でも我々のポリシーとして「建て売り」は埒外であった。土地買いをする線でプロジェクトを進めた。資金計画を組み立てる(こんな事態はまだ数年先のこととして生活していたので)一方で、家屋はプロの設計者を雇うことにした。土地に想定以上のお金をかけることになっちゃったので、建物は「奇跡のローコスト」仕様にせざるを得ない。そんな条件もポジティブに引き受けてくれそうな設計者で、できればおおむね同世代で、なるべくなら友人として親しすぎない程度(このへんの頃合いは難しいが、あまり知り合いだと施主としてクールに振る舞えなくなりそうなので。)の建築家が望ましい。
というわけで、とある設計事務所に、試しにメールしてみたところ、快諾の返事をもらい、最初の「お見合い的打合せ」に、事務所を訪問した。
自宅を兼ねたその事務所の建物も、一見わりと地味にぬっと建ってるわりに、一旦中へ入ると周囲の街の隙間や地形が建物に様々に入り込んで場所を作ってるみたいな、非常に面白い建築なのだった。打合せも、初回にしてすでにとても刺激的で面白く、今後も別な場面で使えそうなネタが頻出した。これは建てること自体が楽しみなことになりそーだと確信して帰宅。
打合せの結果を加えて、再度、資金計画の練り直し。中・長期的な収入の見込みに対して、プロジェクトの総予算を、当初、ハイになって考えていたときに取りこぼした様々な経費を加えて、あらためて概観するに、楽観的に見積もっても、どのファイナンシャルプランナーに相談しても「悪い事例」としてあとで使われそうな、「無謀」とスタンプが押してあるような内容であることが、いよいよ鮮明になった。いや、それでも、享受する生活環境は何者にも代え難い、と家族会議体で話し合う。
「P資金」(抜き差しならない事態になった際に頼ろうと思っていたボリューム)を引き出すべく、実家へ。ところが、P資金が期待薄であり、かつ、遠くない将来の、2世代の共同プロジェクトの構想を示唆された。そうなると、今回、不動産を入手しても、いずれ売却してしまう可能性が出てくる。
衝撃のプロジェクト変更。
ここで、セヴェラルな選択肢は、
1,そのまま、将来のことは考えないようにして、不足分もぜんぶ借入金に計上して進む。期間限定でも、不安定な経済状態でローン返済に耐えてでも、「良質な住風景と住環境」を享受する。
2,「建築」をあきらめる。「住み替え」を見据えつつ、建物を宅地開発業者のデフォルト仕様にして、全体コストを抑えて住む。この場合、土地の価格も下がるため、コストの削減幅は劇的である(返済期間にして10年単位の差になる)。今回、じつに「建て売り」がなぜあるのか、という事情を思い知る羽目になった。「P資金プロジェクト」発動の時期に、この土地の「売れそうな値段」と「残った借金」がバランスする程度に返済が進んでいれば成立する。
3,もう少し広い庭付きの借家へ移る。ただ、複数の不動産屋に問い合わせたが、家賃の相場からして、上記「2」の場合のローン返済額と住居費はさほど変わらない。加えて、賃貸の場合「立地と環境」の選択の幅は限られる。
4,プロジェクト中止。「P資金構想」の実現まで、現在の狭小住居状態を維持。
どーするか。
「庭環境」的には抜群のサイト。しかし、住居部分を、夢想した水準にしようとすると経済的なキャパを越える。
数日間に渡る、ほとんど口論みたいな会議のすえ、今後に備えたリソースの保全、家庭経営学的な危険水準の予想、転売の可能性の担保などを鑑みて、家族会議体として「2」を選択。
結局、「住宅建築には目をつぶって、立地と外部環境を買う」という趣旨になった。「庭に浮気した」のだ。「いずれ売るつもり」でアトリエ住宅を建てるのはもったいないし。
各方面にその旨連絡し、くだんの建築家には「次回にぜひリターンマッチを」とお願いした。
・・・そんなわけで。あれほど、「真に景観を破壊しているのは安直な建て売り住宅地開発だ」などと放言し、自宅の建設を予定している友人には「多少高くなっても建築家を雇え」と勧めたりしておいて、何という体たらくだ。全国各地で頑張って住宅を「建築」している建築家の皆様に、まことに申し訳ない。せめて、デコレーションを全て排除し、可能な限りのストイックな「建て売りのさらにローコスト」な家屋になる予定であるので、ご勘弁いただきたい(←誰にご勘弁いただくのだ)。しばらくの間だけだからさ。
OM氏によれば、この期に及んでは僕が何言っても「言い訳に聞こえる」そうなのだが、以下、あらためて学んだこと:
・我々はそんな自覚はなかったのだが、調布というのは何だかんだ言って世田谷区に隣接していたりし、都心のあおりを食らってけっこう地価が高い。
・さすがにその値段だけのことはあって、デフォルトの家屋の仕様というのは(いろんな意味で)すごい。工期も、信じがたいような短期間である。いちおう、外壁の仕上げやら、床の色合いやら選べる「メニュー」があるが、こちらが下手に目が肥えているものだから、なんかこう、愕然としてしまう。マンションのモデルルームと同じ匂いがする。いわゆる「住宅建築」とは、別なカテゴリーの「何か」である。
・デフォルトの間取り図を、OM氏の事務所へ相談に持ち込んだら、これくらいなら「間取り変更」の範囲でできるんじゃないか、という「改良案」をすらすらと描いてくれた。それだけでもプランがぜんぜん違って見える。ケンチクのチカラの片鱗を垣間見た。ちょっと。
厳密に言えば、上記、まだ完全に決定されたわけではない。これからの手続きで、銀行の審査でローンを断られたりする可能性も絶無ではないし。そのあたりが難なく進めば、夏には6年住んだ現住居を引き払って、崖線のそばへ引っ越しになる。その後しばらく僕は「庭の人」になるであろう。ふー。


コメント
にゃはは(爆)
近いうちに、今の庭を見に行かないといかんね。
余計なお世話だが・・・
崖線がどのくらい急かわからんが、もしも急崖(30度以上)なら、崖上なら崖高程度、崖下なら崖高の2倍以上、離れておいてくださいね。ま、そこまで急なところではなかろうがね・・・一応。。。
Posted by おりゅう at 2007年1月 2日 01:55
30度ってことは、1:2以上だよな。それはなさそうだなあ。。いや、部分的にはそのくらいあるかも。崖高程度には離れていそうだが。土はもう典型的な関東ローム。
庭は、詳細な植生図を作って記録しておくつもり。
移植できないものもあるしな。
Posted by 石川初 at 2007年1月 3日 23:19
まあ、いいんでないのか?
あのな、これで「周辺環境に見事に調和し、ライフスタイルを具現化したようなアトリエ住宅」なんぞに住まれたりしたら、いやみったらしくてしょうがねーじゃないか(笑)「うへーーーー、なんだかんだ言って建て売りなんですぅ・・・」話はそこから始まるのだ。
「つくる」と「買う」の違い、俺もうまく言えないんだけど、建て売りの場合、なんつーかこう接地感が無いというか「超でかい車」みたいな工業製品っぽさというか。
建物に限らず、庭もそうなんだけど、生活からにじみ出てくるものではなく、ほんのりと仮設感がただようのか?・・・たしかに「住宅建築」とは違う。ただ、その違いを認めた上で、その中でできることは(建物でも庭でも)きっと何かあると思う。
石川なら、なにか新しい可能性を追求できるはずだ。楽しみにしてるぞ。
蛇足:俺も、ハードウェアとしては決して満足のいかない家に住んでいるが、やはり「この景色(環境)は、今後どれだけ金積んでも買えないかもしれない」ってのが決め手になった。
まあ、あと10年住んで、家賃分差し引いた金額で手放せたらいいやとも思ってたし。(ところで、ここいらには300坪超で2,000~3,000万円程度の土地・住宅がけっこうあるぞ。500坪以上で数百万円なんてのもあるが、これは農地の市街化調整地区で、農家オンリー。なあ、いっそのこと・・・→オプション5)
あと、内装はボード+クロスだと思うが、この組み合わせって後で手を入れづらいよな。つぎはぎ自在の方がやりやすいので、リフォームのたびに、「内装無しで」「構造・設備むき出し」を主張するのだが・・・却下されるんだよね(泣)
長文失礼
Posted by TAKE at 2007年1月 4日 10:59
>これで「周辺環境に見事に調和し、ライフスタイルを具現化したようなアトリエ住宅」なんぞに住まれたりしたら、いやみったらしくてしょうがねー
これが一番慰まるな。。。
「環境を買った」というのは、薪拾いしてる今井ハウスからの発言だと説得力があるなあ。しかし。
Posted by 石川初 at 2007年1月 5日 01:05
はじめまして。
生まれてこのかた深大寺に住んでます。
しかも超微小設計事務所を営んでおります。
日記の最初の前半を読んで、「おおっ↑」となりましたが、
真ん中を読んで「おおぉぅ↓」となりました(笑)が、
それでも深大寺という場所を愛してくれているんだな、と
嬉しくなりました。
建売住宅の合理さというのは、本当に別ジャンルですね。
あれは真似できません。(色んな意味で。)
でも、そういう選択もあると思います。
Posted by ちわ at 2007年1月 5日 19:17
お久しぶりです。
OM氏がアドバイスされた通り、業者仕様の範囲内でも、幾らか改善できるのではないかと思われます。
実際、建築条件付きの物件において、業者と建主の調整役として、うまく建築家が入り込んだ例があります。
詳細を把握していないので、今回のお話に当てはまるかどうか不明ですが、こんな例です。
http://www.geocities.jp/kt_kohsakutai/okashi.html#
http://www006.upp.so-net.ne.jp/komai/tateuri-ike.htm
Posted by 中村謙太郎 at 2007年1月14日 23:31
忙しそうだね。新居計画は進展してるかい?
>>これで「周辺環境に見事に調和し、ライフスタイルを具現化したようなアトリエ住宅」なんぞに住まれたりしたら、いやみったらしくてしょうがねー
>これが一番慰まるな。。。
石川の今の家だって「ランドスケープアーキテクトの家」としては、十分いい線いってると思うのだが。(最近の状況は知らないけどさ。ま、家族が増えてボリューム不足になるのはどうしようもないよ)
まあ、10年住んで、もっと長く住むことになった時に、派手に切った貼ったをやりやすいようにだけしておいたら?
あと、プライベートに関わることだから、外野があまりとやかく言うべきではないのかもしれないが、プロセスをネットで公開してくれると、傍目八目を楽しめるのだがね。
以上。「買った」はずの周辺環境に押されっぱなしで防戦一方、全てが中途半端になってしまっているTAKEより。
Posted by TAKE at 2007年1月16日 10:54
君が何言っても「言い訳に聞こえる」と指摘した他ならぬOM氏に付き合って頂き、決済直前の「土地境界杭の最終確認」をしたのだが、その後の「呑みながらの最初の真面目な打ち合わせ」の中で、石川君の「裏切り」についてブログで言い訳しているのを知っているか、と聞かれたのだった。そう言えば、ここ数週間、仕事の合間を縫って資金をかき集めたりするのに奔走していて、人様のブログに目を通す暇もなかったのだった。うむむ。
>> プロセスをネットで公開してくれると、傍目八目を楽しめるのだがね。
確かにそうだが...
『「建て売り」がなぜあるのか』(石川初 著)とかいう題名の本を書いたりして、建て売りブームの片棒を担いだりしたら、きっと建築家合同出費で雇われた刺客に一生付け狙われるだろうから覚悟しておけ、な。人の一生を狂わせた報いを受けるが良い。なははははっ...
などと言っているうちに、決済を済ませて土地が自分のものになりました。まだピンと来ないが、すっからかんになった通帳を見ていたらちょっと実感がわいて来たぞ。
Posted by entee at 2007年1月29日 16:23
さすがに「裏切り」はやめてほしいな。
Posted by 石川初 at 2007年1月31日 01:52
いや、というかまあ何とでも言ってくれ。
Posted by 石川初 at 2007年1月31日 20:57
建て売り住宅の本質がわかったなどというつもりは毛頭ないのですが、このところの石川氏の住宅取得過程に多少関わってわかったことはふたつあります。ひとつは建て売り住宅(厳密には売り建て住宅)でも思っていた以上の自由度があること。もうひとつは、しかしそこには厳然とした限界があるということです。
要はその限界をどう捉えるかと言うことであり、石川氏の言動はそのあたりに関しては憎たらしいほど明快ですね。いや、実はまだそこまで割り切れてはいないのかもしれないけれど。
Posted by OM at 2007年2月 1日 00:58
いや、そこまで割り切れてはいないです全然。不甲斐ないというか、「あきらめた」ことは山のように。
でも、今回を通して、この記事に頂いた上記の皆様のコメントも含めて、考えたことや学んだことも山のようにありますので、もうすこし気が静まったらすこし、記録しておこうと思っています。
Posted by 石川初 at 2007年2月 3日 01:32
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