2006年3月21日

hills everywhere

ゼンリンの電子地図帳Zは、地名の検索、リストアップと位置の同定が、ボタン一発で素早く簡単にできる。地名の一部の文字からも検索できるので、たとえば全国の「犬」という文字の入った町名の数と位置(青森県から鹿児島県まで89件、北海道にはない)、などという調べものが容易にできる。

ということに気が付いたので、以前から気になっていた「なんとかヶ丘」の「分布」をプロットしてみる。
下は、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県における「丘」地名の場所を、地形図に重ねたもの。

東京都には34件の「丘」がある(団地ナイト2で話題だった「光が丘」も含む)。
都心にもあった。神宮外苑の中に霞ヶ丘町という町域がある。渋谷には「桜丘町」というのもある。
神奈川県には67件、千葉県には41、埼玉県には20の「丘」がある。

いつごろから、この人工的な響きのする「なんとかヶ丘」が「良いイメージを喚起する地名」になったのだろう。たしかに、「緑ケ丘」と、「緑ケ沢」や「緑ケ谷」では響きが違う。それだけに、「自由が丘」から、チバリーヒルズ「千葉県緑区あすみが丘」まで、「丘」には不動産商品価値を高めようという、あからさまな意図が感じられるし、なんかこう、私鉄沿線で小さいイヌを連れて散歩しているふうの、20世紀終盤オールタイム郊外の匂いがある。もっとも、こういう、スノッブ最前線みたいな場所は、現在では都心のタワーマンションが引き受けているような感じもするが(だとすると、次々に建設される『ヒルズ』は、都心に帰ってきた『ケ丘』なんだったりして)。

「丘」探しをしていると、似たようなコンセプトのもうひとつの地名、「なんとか台」というのも目に付く。

下は一都三県の「台」の分布。「丘」よりも「台」のほうが気軽に使えるみたいで、おおむね「丘」の2倍くらいの「台」がある。

東京都には59件の「台」がある。神田駿河台、麻布台、白金台、というふうな「古い」台もある。ただし、検索は地名に「台」という文字が紛れ込んでいる全部を表示するので、「台場」とか「台東区台東」というのもカウントしてしまっている。神奈川県は137。千葉が204。埼玉には62。

千葉県の「台数」がすごいが、千葉県の場合、必ずしも「花見台」「月見台」というような新興住宅地だけでなく、「台町」というような古い地名も混じっている。利根川沿いの段丘の「台」はほとんど、古そうな地名である。

東金市には「丘山台」という、そこまで強調しなくても、というような地名がある(丘と台と、両方の字が入っているので、検索ではダブルカウントしてしまう)。

丘と台をあわせて表示してみると、いちおう、ほとんどの「丘」「台」は台地の上にある。さすがに低地には「丘」とは名付けにくいようで、荒川や江戸川の流域にはごそっと「丘空白地帯」がある。

逆に、いくつか、過度に集中している地区がある。

図中「A」は、横浜市青葉区、東急田園都市線「青葉台」駅周辺。近年まで、渋谷を支えたリソースだ。3km四方の丘陵の尾根に、異なる名前の「台」が10箇所、「丘」が5箇所ひしめいている。「台丘銀座」。

「B」は千葉市稲毛区周辺。「みつわ台」とか「千草台」というような思わせぶりな地名が並んでいる。

「C」は、平塚市。平塚市の市街地は海岸にあって、どう見ても丘や台地ではないが、海に近いところに「夕陽ケ丘」「黒部丘」「龍城ヶ丘」などという「丘」が5つもある。首都圏で最も標高の低い「丘」地名だ。むろん、「丘」も「台」も、相対的な土地の形状を指すものだから、実際に現地を見れば、微妙に周囲から高くなっている「微台」なのかもしれないが。

逆に、最も高い位置にあるのは埼玉県秩父市の「みどりが丘」で、標高200mくらいのところにある。わざわざ「丘」と呼ばなくてもいいような、ほとんど「山」みたいな場所に開発された住宅地。

検索したら、松江高専の紀要論文に、イメージ地名の時代による変化を追った論文を見つけた。
黒田祐一「日本における瑞祥地名の変遷」(松江工業高等専門学校研究紀要第40号、2005.02)

http://www.matsue-ct.ac.jp/tosho/kiyou40/pdf/k-report03.pdf

英語のタイトルは、「The Changes of the Lucky Place Names」。
「ラッキープレイス」。ちょっといい響き。
そのまんまどこかの新しいマンションの名前に使われそうな。
「ラッキープレイス調布が丘」。

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コメント

>たとえば全国の「犬」という文字の入った町名の数と位置(青森県から鹿児島県まで89件、北海道にはない)

あ、そ。

ちなみに北海道には「猫」もない。全国では20件。

ただし、さすがに、「馬」は7件。「牛」は32件。「熊」が9件ある。

町名ではないが「犬牛別」という地名があったような・・・
そのまんま「いぬうしべつ」
もちろんアイヌ語由来なのだが、字面から、なんともほのぼのした雰囲気を感じるのは俺だけではないはずだ。と、思うが。

町名とは限らないですが、下馬、牛久、熊谷、と「地名っぽい」ものがいくつも思い浮かぶけど、「猫』は思い浮かばないですねえ。全国で見るとそっちのほうが多いのが意外です。

国土地理院のサイトにこんなページが。
http://www.gsi.go.jp/WNEW/LATEST/special05-06/data/inu-timei.htm

そういえば、がっこうは緑が丘、通学経路の旗の台、奈良の実家のは西登美ヶ丘に松陽台、です!

>ただし、さすがに、「馬」は7件。「牛」は32件。「熊」が9件ある。

さすが(苦笑)といえば、美馬牛(びばうし)などというとんでもなくさすがな地名もある。

いや、前振りに、こんなにがっつり食いついて申し訳ない。

今後、森本君のことを「台地の子」と呼ぶことにします。

こういう,演習で学生にやらせてみたいようなことを,さささっとやっちゃうのが石川さんですよねえ.
フットワーク(マウスワーク?)の軽さにいつも感心してしまいます.

知人の研究↓です.もう少し広域で見てますね.
http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/japanese/research_activities/symposium/6th/miyazaki.ppt

おお!これ、面白えー。
そうか、やっぱりArcGISか。。。


ところで本日、ちょっとストレスフルな会議があったのだが、「イヌウシベツイヌウシベツイヌウシベツ」と唱えて乗り切りました。イヌウシベツ効果。

先日はどうも。

本文で触れられていた千葉県稲毛区は確かに印象としても「台」多いですね。学校が千葉大(稲毛区)だったのでよく覚えています。

千葉大のある場所もあからさまに段丘の上という感じで、南西を走る国道14号線のところはがくっと崖になっています。たぶん昔の海岸線かと。松も多いし。

ポイントは千葉大周辺は文教地区ってことです。比較的古い学校があるところって高台だったりするんじゃないでしょうか。ああ、これは都内では単に大名屋敷跡ってだけかな。

そう思うと、同じ文教地区である表参道が「ヒルズ」を名乗るようになったのにはなにか因縁を感じます。うそ。あんまり感じない。

あと、ぼくの好みの古い団地は「台」にあり、「丘」にあるのはあまり好きじゃない気がする。もちろん「光が丘」は例外。

たしかに、30年代らしい団地がそのまま住所になっている場所は「台」が多い、というのは、調べていて気がつきました。「ヒルズ」より「ハイツ」のほうが古い感じがするし。「六本木ハイツ」「表参道ハイツ」だと、流行の先を行ってる感じはしないですね。それこそ団地の名前みたいで。あ、「光が丘」は「グラントハイツ」だったんだよな。そういえば。

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