2006年3月26日

恩師をして安心せしめるの巻

日曜日。

朝、雑誌「エコマム」の取材で、記者とカメラマンのお二人が自宅へ。家じゅうを嘗めるように撮影。子供らと、庭で食事したりベンチに座ったり絵本を読んだり、いかにも「しあわせそうな親子」のポーズを取りまくる。

エコマムが帰った後、家族4人で渋谷のNHKへ。
妻と子供たちはスタジオパークへ、「おかあさんと一緒」のキャラクターだの何だのを見に行き、僕はそのまま放送センターへ入って、「熱中時間」の撮影。先日の団地ナイトでご一緒した大山総裁と2人で、コメンテーター(教授役)を演じるためだ。番組は、「熱中人研究所」という機関が、毎週、日本全国のコアな趣味人のケーススタディをする、という設定であって、レギュラー出演者はみんな白衣のような衣装を着ている。今回、僕と大山さんは「非常勤」ながら、ゲストじゃなくって「レギュラー側」の出演なので、その白衣を着て椅子に座った。うう、いったいどうしてこんなことに。なんだか、自分の役回りがうまく掴めず、冷や汗をかいてしまった。やれやれ。

僕の存在はともかくも、今回のゲストはのけぞるようなインパクトのある人であった。おまけに、解説者として三浦雄一郎さん(あの冒険スキーヤーの三浦さんご本人)が同席されていたし、見るに足る内容だと思うぞ。みんな。

撮影後、控えコーナーで、大山さんから、あるところで進んでいる、ちょっとした構想について話を聞く。楽しみな話で、かつ、大袈裟に言えば日本のインターネット文化(ブログ以前に開花しかかっていたような)に関わるような、いろいろと考えさせられる「計画」だった。僕も無関係ではいられないだろう旨、大山さんに予告される。というか、むしろお手伝いしたいくらいの内容なのだった。しかし、なんという思わせぶりな文章なのでしょう。まあ、具現化したら、ここでもお知らせすることになるだろうと思われる。その折にまた。

帰宅したら、自宅の留守電に、小学校の時に担任だった先生からのメッセージが残されていた。いわく、僕の母に手紙で知らせをもらい、僕が出演したテレビ(前回の熱中時間スペシャルだと思う)を見た。「頑張って元気に活躍しているようで安心しました」。

うわ、お久しぶりですI先生。でも、「ちゃんとまともな社会人として仕事しているのか、心配です」ならともかく、「安心しました」はすこし違うような。いやそれよりも、小学校時代の担任の先生に手紙で息子のテレビ出演を広告するウチの母はいったい。

2006年3月21日

hills everywhere

ゼンリンの電子地図帳Zは、地名の検索、リストアップと位置の同定が、ボタン一発で素早く簡単にできる。地名の一部の文字からも検索できるので、たとえば全国の「犬」という文字の入った町名の数と位置(青森県から鹿児島県まで89件、北海道にはない)、などという調べものが容易にできる。

ということに気が付いたので、以前から気になっていた「なんとかヶ丘」の「分布」をプロットしてみる。
下は、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県における「丘」地名の場所を、地形図に重ねたもの。

東京都には34件の「丘」がある(団地ナイト2で話題だった「光が丘」も含む)。
都心にもあった。神宮外苑の中に霞ヶ丘町という町域がある。渋谷には「桜丘町」というのもある。
神奈川県には67件、千葉県には41、埼玉県には20の「丘」がある。

いつごろから、この人工的な響きのする「なんとかヶ丘」が「良いイメージを喚起する地名」になったのだろう。たしかに、「緑ケ丘」と、「緑ケ沢」や「緑ケ谷」では響きが違う。それだけに、「自由が丘」から、チバリーヒルズ「千葉県緑区あすみが丘」まで、「丘」には不動産商品価値を高めようという、あからさまな意図が感じられるし、なんかこう、私鉄沿線で小さいイヌを連れて散歩しているふうの、20世紀終盤オールタイム郊外の匂いがある。もっとも、こういう、スノッブ最前線みたいな場所は、現在では都心のタワーマンションが引き受けているような感じもするが(だとすると、次々に建設される『ヒルズ』は、都心に帰ってきた『ケ丘』なんだったりして)。

「丘」探しをしていると、似たようなコンセプトのもうひとつの地名、「なんとか台」というのも目に付く。

下は一都三県の「台」の分布。「丘」よりも「台」のほうが気軽に使えるみたいで、おおむね「丘」の2倍くらいの「台」がある。

東京都には59件の「台」がある。神田駿河台、麻布台、白金台、というふうな「古い」台もある。ただし、検索は地名に「台」という文字が紛れ込んでいる全部を表示するので、「台場」とか「台東区台東」というのもカウントしてしまっている。神奈川県は137。千葉が204。埼玉には62。

千葉県の「台数」がすごいが、千葉県の場合、必ずしも「花見台」「月見台」というような新興住宅地だけでなく、「台町」というような古い地名も混じっている。利根川沿いの段丘の「台」はほとんど、古そうな地名である。

東金市には「丘山台」という、そこまで強調しなくても、というような地名がある(丘と台と、両方の字が入っているので、検索ではダブルカウントしてしまう)。

丘と台をあわせて表示してみると、いちおう、ほとんどの「丘」「台」は台地の上にある。さすがに低地には「丘」とは名付けにくいようで、荒川や江戸川の流域にはごそっと「丘空白地帯」がある。

逆に、いくつか、過度に集中している地区がある。

図中「A」は、横浜市青葉区、東急田園都市線「青葉台」駅周辺。近年まで、渋谷を支えたリソースだ。3km四方の丘陵の尾根に、異なる名前の「台」が10箇所、「丘」が5箇所ひしめいている。「台丘銀座」。

「B」は千葉市稲毛区周辺。「みつわ台」とか「千草台」というような思わせぶりな地名が並んでいる。

「C」は、平塚市。平塚市の市街地は海岸にあって、どう見ても丘や台地ではないが、海に近いところに「夕陽ケ丘」「黒部丘」「龍城ヶ丘」などという「丘」が5つもある。首都圏で最も標高の低い「丘」地名だ。むろん、「丘」も「台」も、相対的な土地の形状を指すものだから、実際に現地を見れば、微妙に周囲から高くなっている「微台」なのかもしれないが。

逆に、最も高い位置にあるのは埼玉県秩父市の「みどりが丘」で、標高200mくらいのところにある。わざわざ「丘」と呼ばなくてもいいような、ほとんど「山」みたいな場所に開発された住宅地。

検索したら、松江高専の紀要論文に、イメージ地名の時代による変化を追った論文を見つけた。
黒田祐一「日本における瑞祥地名の変遷」(松江工業高等専門学校研究紀要第40号、2005.02)

http://www.matsue-ct.ac.jp/tosho/kiyou40/pdf/k-report03.pdf

英語のタイトルは、「The Changes of the Lucky Place Names」。
「ラッキープレイス」。ちょっといい響き。
そのまんまどこかの新しいマンションの名前に使われそうな。
「ラッキープレイス調布が丘」。

2006年3月20日

10+1地表系特集号

10+1最新号、「地表系特集」の見本を、編集部から送っていただいた。

10+1_No.42[特集]グラウンディング──地図を描く身体

田中浩也さん、佐々木一晋さん、元永二朗さん、岩嵜博論さん、石川、が企画・執筆をし、それぞれ「これは」という方に寄稿をお願いした。

企画チームの記事以外には、東京スリバチ学会の紹介と「これまでのまとめ」とか、安藤幸央さんによる「Google EarthからMITAKA」の解説、石川による「Livingworld」西村佳哲・たりほ夫妻へのインタビュー、GPS-Drawingの本家、ジェレミー・ウッドさんによるGPSDrawingプロジェクトのクールな紹介文もあり。

本江さんには学位論文の要旨のごとき小論を書いていただいた。宮本佳明さんは「環境ノイズエレメントの見つけ方」をユーモラスに書いていただいたし、中谷さんは「コンゲンカード」について丁寧に解説してくださった(論考の末尾、あ、文字数が尽きちゃった、という終わり方が、何度読んでも笑える)。木下剛さん+根本哲夫さんには、東京近郊で半世紀に渡って地形と向き合ったプロジェクト「多摩ニュータウン」について書いてもらった。

僕は、「グラウンディング」のイントロダクションと、GPSについてと、潜在自然植生図についてを書いた。この、「偏ってるくせにバラバラ」な羅列が今回の特集の特徴なのである。だって、一時はもう、あきらめた方がいいんじゃないか、と悲観するような作業スケジュールだったのだ。そんなわけで、執筆や制作に、思ったよりも時間を割けず、特集全体として見ると荒削りで不完全だが、あくまでも「中間報告」だと思って、誘われているつもりで読んで頂けると嬉しい。これはこれで、面白い特集になったと思う。というか、これで1500円は安いぞ。買ってくれ(笑)。今週中には書店に並ぶ予定。

以上、とりいそぎ広告まで。

以下、追記予定:

・入稿後、しっかり校正している時間がなかったので、注釈や数字に間違いが散見される。「正誤表」を作ってこちらに載せるつもり。

・五十嵐太郎氏の連載で「景観狩り」問題が俎上にあがっている。いくつか思いつくこともある。後日また。

you're really cookin'

先週の通勤本。

須江公美子(gaby)「gaby's kitchen」(有)眺、2006

これは「電子本」。著者は、現在オーストラリア在住の、ビジネスコンサルタント/日本語教師/言語学専攻大学院生(←しかし、他人に説明しにくいステータスだ)。知り合ったのは7、8年前、当時リクルートが運営していた在外日本人のための情報交換のメーリングリストでだった。ちょっとした応答が巧みで冴えまくっていて、独特の笑いのセンスと知性が感じられて、いい文章を書く人だなあと思っていたのだが、最近、立て続けに「本」が出た。

理想書店:「ある日、パースで」

理想書店:「gaby's kitchen」

前者は、西オーストラリアの街を舞台にした、「バーでふと出会って、別れた」みたいな感じのオトナの恋愛短編集。小説だが、実際に見聞きしたことが大いに題材になっている。のだろうと思われる(推測)。

最近出た、「キッチン」は、料理のレシピがちりばめられたエッセイ集という趣きの本で、これは面白い(でも、帰りの電車で、空腹を抱えて読むとなかなかキツい)。読み進んで終わってしまうのがもったいないくらい。続編を希望。あるいは、拡大版で紙で出版されるとか。

PCの画面上で読むこともできるが、T-Timeを有料アップグレードすると、iPod用の連番画像に変換することができる。こんな具合に。

意外と読みやすい。画面の大きさの制約で、「1ページ」の文字数が少なくなるために、頻繁にページを「めくる」必要があるが、iPodのホイールクリックはまったく苦にならない。朝夕の、身動き取れない電車の社内でも、快適に読める(電車が快適なわけではないが)。

これを本にしたのは、「マチともの語り」というプロジェクトで、この、「地域を小粋に物語ろう」という姿勢には共感する。そうか。「物語り」なのだ。やっぱり。

マチともの語り - ABOUT US

2006年3月13日

雑草・雑誌・熱中時間

・土曜日。
神田、南洋堂書店の屋上の植栽をお手伝いすべく、朝9時にお茶の水へ。

ほんの2平方メートルほどの植栽なのだが、せっかくなので、何か面白いことをしようという話になり、関係者や知り合いに募って、それぞれの「地元の地面」を堀り取って持ち寄ってモザイク状に寄せ植えする「カット&ペースト」植栽にすることにした。

土曜日にはすでに、仙台の土から鎌倉の雑草まで、様々な場所からの「ひとすくいの地面」が屋上に並んでいた。スコップを携え、借りていただいたバンに、屋上をデザインしたプロスペクターの山本さん今村さん(南さんは多忙で不在)とともに乗り込んで、都内の「地面狩り」に出かける。外堀端や鉄道の土手、ビルの隙間の空き地なんかを巡って、ススキやカゼグサやグラウンド脇に生えていたダイコンみたいに見えるアブラナ科ふうの草(とその周囲の土)を収穫して戻り、屋上へ植えた。なんだか、いい感じの野性味溢れる庭になった。

店主の荒田さんに、南洋堂の「預かり金」で報酬を頂いた。これは、僕がお店にあらかじめお金を預けている、という形にしておいてくれるもので、その金額の範囲で好きな本をもらえるわけである。おお。なんか、現金をもらうよりも嬉しい。うっふっふ。そういうわけで、帰り際、ひとりほくそ笑みつつ店内をうろついて、2冊ばかり本を抱えて帰った。

翌日は予想通り、肩や腕が筋肉痛。

・日曜日の昼間。
日経BPの雑誌「エコマム」の取材。
雑誌やテレビの取材が来ることになると、それに備えて一生懸命片付けて掃除するため、普段よりもずっと家中がキレイになる。加えて、雑誌やテレビは「絵になる部分」を、さも美しげに載せてくれるため、それを見て、自分の家が実物よりもキレイかのような錯覚を抱くことができる、という効果もある。。。

・日曜日の夜。
ゲスト出演した、NHK BS-2の「熱中時間」のスペシャル版、「熱中時間スペシャル:趣味の超人たち」が放映されました。詳細は後日また。

2006年3月 7日

精進落としヒルズ

森ビル「表参道ヒルズ」のウェブサイトで、広報誌「HILLS LIFE」が閲覧できる。そこに掲載されていた、1920年代、造営されたばかりの表参道の写真。

すげー。V字の谷地形。一度下ってからまた上ってゆく、坂の迫力。距離から推測するに、青山通りの方向から撮影したんじゃないかと思うが、正面の大鳥居のスケールがすごい。

周囲には雑木林らしい木立以外はほんとに何もない。考えてみれば当然なのだが、こうして見ると、表参道が明治神宮という神社の一部として作られた「参道」という施設だったんだ、ということがよくわかる。

この参道は、神宮橋から、初日の出の方向に向かって設計されたそうだ。地図上の長さはきっちり1km。周囲の文脈を無視して作られたからこそ、渋谷川を強引に横切る独特の勾配を持った通りになったのだ。人工的に作られた、内苑の「森」と相まった「荘厳装置」。

このあたりは最近、ぐっと商業地区化したけれども、これはこれで、80年かけてようやく、荘厳一点張りを克服して、ちょっと俗な、マチュアな「門前町」になった、ということなのかもしれないぞ。

2006年3月 6日

家森(←ヤモリ)

新建築3月号に、「第9回TEPCO快適住宅コンテスト・Switch!ハウジングプロポーザル」の結果が掲載されている。
最優秀賞は、石上純也氏の案。

なるほど。

でもですね、どこかで大きくした樹木を植えて、「森」呼ばわりするのはもう、やめたらどうだろう、と思うのですが。真面目に。
こんなに植物に期待しちゃって、大丈夫なんでしょうかね?建築は。

追記。

同号の表紙は三分一博志氏による「brood」。
もと紳士服量販店の、別な商業施設への転用。
こ、これは冴えてる。
集水するシェード。
アスコンを切り出した「アスファルト平板」。これがかっこいい(どうしてもそっちに目がいくので)。

モバイル地形、その他。

月曜日。
仕事で、樹木の材料検査のために、朝から大船へ。造園工事業者さんの運転するバンに乗って、建設現場へ搬入する予定のケヤキやシラカシを確認しながら、藤沢周辺をぐるぐる回った。

途中、慶應のSFCのすぐ横を何度か通過した。
キャンパスの周囲には、農地と雑木林以外、なんにもない。僕の知り合いの、SFC出身者のほとんどは、大学の同級生同士で結婚しているが、その理由がわかったような気がした。。。ま、それはそれで悪くないけどな。

水曜日。
夜、屋上庭園の打合せにお茶の水の南洋堂へ。これは面白いものになりそうだ。

木曜日。
職場のパソコンの、リース切れに伴う機器入れ替えで、僕の机にはインテル入りMacBook Proと、ソニーのVAIO type-Tが来た(仕事柄、MacとWinを両方使うので)。MacBookはたしかに、触れ込みどおりやたらと速くて快適である。一方、VAIO-Tは何しろ小さくて軽い。じつは僕はこういう、いわゆるモバイルノートパソコンを持ったことがなかったので、ちょっと新鮮だ。

たまたま、タクシーで出かける用事があったため、早速VAIOにKashmir3Dをインストールして、GPSを接続し、元永さんの真似*1 をして、地形だけの地図に現在地を表示させながら移動してみた。

これは面白い。カーナビのそれとはまた違った体験だ。赤坂から目黒まで移動したのだが、タクシーの運転手さんが不慣れな新人で、何度か道を間違えたため、普通は通らないような裏道を迂回したりして、麻布の台地を上下したため、さらに面白かった。おまけに、タクシーに同乗していたのが「東京スリバチ学会」の会長・ミナガワだった(いま、たまたま同じプロジェクトを手伝っている)ため、「おー、ここまっすぐ行くとガマ池の谷だなあ」「この道はやっぱり尾根が続いてるんだなあ」と、運転手への指示もそっちのけで盛り上がった(会議にはちゃんと間に合った)。

金曜日。
夕方、我が家の取材をしたいとおっしゃる、某雑誌の編集の方が打合せに見えた。夏を涼しく過ごすための、住まいの工夫として最も大切なものはなんでしょうか、という問いに、「立地じゃないでしょーか」と、身も蓋もない答えをした。

土曜日。
横浜にある妻の実家へ、日帰り。VAIOを持参して、「地形ナビ・電車編」を試した。
横浜から調布への帰路、僕らはしばしば、混雑する都心を避けて、横浜線で橋本まで行ってから、京王多摩線で調布へ引き返す。見ていると、横浜線は多摩丘陵の西南のエッジに沿って、北西へ向かう。京王多摩線は多摩ニュータウンを縦断して北東へ向かう。多摩ニュータウンは、多摩川沿いの低地と相模川沿いの低地を繋ぐ格好になっている。

なるほど。と、電車の中でノートパソコンを眺めながら一人で頷く。
あと、液晶画面にべたべたの指で触ろうとする3歳と1歳の攻撃を防ぎながら「地形ナビ」するのはなかなか大変である。ということもわかった。

日曜日。
春の庭の手入れ。一日中、ハサミとスコップとを持って庭にいた。夕方には腕も肩もパンパンになった。庭に園芸用品収納用の木製棚を増設すべく、材料を買いそろえたのだが、大工仕事に取りかかる前に日が暮れた。
庭のいたるところで、様々な芽が「用意」についていた。あと数週間で、「春のビッグバン」が始まる予感。

*1. 10+1次号参照。