・「東京の凸凹地図」
東京地図研究社「地べたで再発見!『東京』の凸凹地図」技術評論社、2006
地元の書店の地図コーナーで見つけた。
奥付には「平成18年1月15日初版第一刷発行」とあるが、Amazonにも先週から出ている。定価1,680円。
1冊丸ごと、東京都市部の「地形」に関する本である。専門書でなく、「東京の地面の意外な相貌を再発見し、街へ見に行ってみよう」というような、いわば「地形フィールドワーク入門」。
空撮写真をアナグリフにした「立体視地図」や、5mメッシュ標高データを使った陰影図による都内各地のユニークな地形の解説など、じつに秀逸だ。陰影図は普段から自分で作ってさんざん眺め回しているが、都心のアナグリフは新鮮だった。土地の起伏と建物や土木構造物の立体的な錯綜のこのザラザラ感は、森ビルの都市展の模型でも味わわなかった、初めての体験。これは面白い。
本文は、単なる「凸凹観察」ではなく、地理学用語や自然史(潜在自然植生に関する記述まである)の解説まで添えられていて、けっこう「硬派」である。巻末の参考文献に、貝塚先生の「東京の自然史」と並んで鈴木理生氏の「江戸・東京の川と水辺の事典」が挙げられている。フィールドワークの目の付け所も浅くない。東急のビルと地下河川・渋谷川の拮抗状態の観察など、とてもスリリングだし。
残念な点は、まず、「全体図」がないことだ。『原宿「竹下通り」は川底だった』とか『「大森」の台地に谷が多いわけ」とか、視覚的に工夫された陰影地形図が解説記事とともにいくつも掲載されているのに、東京全体の地形図がない。東京の地理を熟知していないと、それぞれの場所の関係もわからないし、武蔵野台地全体くらいの地形も見えない。どこかに見開きでインデックス地図くらいあってほしい。惜しい。
それと、図版を作成した「もとデータ」の入手方法とか、加工方法に関する記事がない。メッシュ標高データは市販されているし、空中写真も国土地理院のサイトで閲覧できるし、それこそカシミールを使ったりすれば「地形図を自作して加工する楽しみ」は素人にも簡単にできることだ。あるいは、パソコンを使わずに「1万分の1地形図の等高線を色分けしてみよう」でもいい。「簡単に入手可能な情報をすこし加工するだけで、東京の意外な『プロファイル』が浮かんでくるよ」というのも、こういう「都市地形入門書」の面白くなりうるところであるわけで、惜しいな。
まあしかし、そういうのを差し引いても、いい本が出たぞ。
内容もさることながら、このテーマが「本」になっちゃうところが驚きだ。
これはもしかして、これから「地形」が「来る」徴候なんだろうか。
と、本日、たまたま我が家へeTrexを取りに来られた地図メカ・元永氏に話したら、いや、「来る」はないでしょうが、ここ最近、いままで潜行していたところの「こういう本を待っていた人たち」が表に出てきやすい雰囲気になってきた、というのはあるでしょうね、ということであった。
東京地図研究社のウェブサイト:
http://www.t-map.co.jp/
この、何とも言えない「堅さ」が頼もしい。やるじゃないか東京地図研究社。