2005年11月28日

地図の読解力についてなど

今週の通勤本。

松井章「環境考古学への招待—発掘からわかる食・トイレ・戦争 」岩波新書、2005
なんとなく「地層」つながりで。

今尾恵介「日本地図のたのしみ」角川書店、2005
今尾さんの新刊。もう、目次を眺めているだけでニヤニヤ笑いを漏らしてしまうような本である。いや素晴らしい。

著者は前書きにていわく、

地図は「現地のありのまま」だと思っている人が意外に多いようだが、デジタル時代の今となっても、一定の数値を入力すれば自動的に出来上がるものなどほとんどない。地図というものは、その企画者が手段としての記号(図式)を用いて、「何らかの意図」を表現した著作物なのである。あらゆるものをレンズを通して等価な情報として取り込んでしまう空中写真と決定的に異なっているのはこの「意図を表現」する点だ。

これが「地図のリテラシー」である。無限にありうる地上の情報の組み合わせを、ある観点のみから選択的にマッピングしてある媒体である、という点で、地図はそのまんま作者の世界観の表明でもあり、高度に政治的・権力的なメディアでもある。でも、だからこそ、「わかってて」使うなら、それは強力な「地表への接近」のツールになるのである。

ついでに、「デジタル地図も使う係」として、今尾さんの見解に補足させて頂くならば、空中写真や衛星写真とて、決して「意図フリー」な、「あらゆるものを等価な情報として取り込んだ」媒体ではありえない。それはやはり、ある特定の時点で、ある特定の場所を、ある特定のやりかたでキャプチャーして、ある特定の手法で視覚化したものに過ぎない。盲信してしまうと、場所そのものを見失うのは空撮マップでも地図でも同じだし、コツを掴めばその「偏向性」を利用してより「深読み」ができるのも地図と同様である。だから、地図リテラシーを身につけていれば、空中写真もデジタル標高データもこわくないのだ。フィールドワーカーは必携。

2005年11月24日

Tokyo Geo-Guide

・・・この段丘面を形成した河成砂礫層(武蔵野礫層)を一括して同時のものとするのは、1万年目盛の時計で時間をはかるセンスなのである。
古書店で購入したのは、貝塚爽平「東京の自然史」紀伊國屋新書、1964。

東京の地形の成り立ちについて解説したこの、地形偏愛者の心をくすぐる入門書は、現在、装丁を新たにしたハードカバーの「増補第二版 1979」(16刷、2001)が同じ出版社から出ている。ロングセラーだ。
初版本を半分くらい読んだところで、「増補第二版」を立ち読みしたら、初版で「これについては未だよくわかっていない」というような記述があった箇所の多くに加筆や修正があるのを見つけて(もちろんそれが『増補』の趣旨なんだけど)、思わず買ってしまった。そうしたら、この2冊を同時に読み進みつつ、比べてみるのが非常に面白い。ということがわかった。

たとえば、武蔵野台地の北部の、大宮方向への傾斜が急で、台地の東南部と比べると明らかな非対称をなしているのはなぜか、ということについて、著者は地殻変動によるものではないかと推定し、大宮台地と武蔵野台地の間に構造線があることを示唆しつつも、今後の研究で明らかになるだろう、と「将来の課題」にしている。
スリバチ学会周辺で話題だった赤羽台の北のまっすぐな崖はその一部である。つまり、あの崖は、荒川が削ったというよりも、荒川低地が「凹んだ」というべきで、むしろ荒川があそこを流れているのは地殻的都合だったのだ、ということだ。

で、第二版を見ると、この箇所に「荒川断層」の存在が推定されている、という記事が加筆されていて、図版にも断層の位置が新しく示されている。さらに、巻末には増補版で加わった「補注」があり、そこに近年の活断層の研究成果が紹介されている。やっぱりそうだったのか。沈まない大宮台地の真ん中に氷川神社が鎮座しているのも、なんか思わせぶりだぞ。

ところが、オンラインで検索してみたら、最近の研究成果をふまえた評価として、この推定活断層の存在は否定されたそうである。
文部科学省地震調査研究推進本部:荒川断層の長期評価について
というわけで、武蔵野台地の北側がどうしてべこっと下がっているのか、という疑問に対する最新のお答え:「くわしいことはよくわかりません」。

すごい。地学はどんどん進んでいる。

学説がひっくり返ったりしたことはしかし、この本の魅力をいささかも減じない。むしろ、ここには、それこそ地層のように研究成果が積み重ねられて、新しい知見が加わっていきつつある、学問の先端のわくわくするような眺めがある。文章がまた誠実で丁寧で、目配りがきいていて、アマチュア・ジオロジストのキモを掴むのだ。

地学や地理学や生態学など、空間的・時間的スケールに幅も奥行きもある、しかし同時に非常に身近な事象も扱うような、複雑なものを研究する学問の解説書には、ときにこういう魅力のあるものがある。平易な語り口ながら、その向こうにある「思想」が感じられるのは、沼田眞氏の本なんかに似ている。

「東京を知ることは東京に愛着をもつことの始めであろう」と、増補第二版の前書きに著者は書いている。おっしゃるとおりです貝塚先生。少なくとも僕には、他のどんな都市論、東京論よりも、東京を好きにさせる本である。買って損はしないぞ。

同じ著者の「富士山はなぜそこにあるのか」(丸善、平成2年)もお勧め。「山手線から見える地形」とか「地形を読む--神田川の谷」とか、ネタ満載(特に慶應の小林研の院生さんたちにお勧めのような気がする)。

と、かくして、先週から今週、通勤時に、コートの両ポケットにそれぞれ新書版とハードカバーをつっこんで、新書版をすこし読んではハードカバーを取り出して同じ箇所を読み、おお、とうめき声を上げているのである。う、上着が重い。

2005年11月14日

赤羽trex

スリバチ学会・赤羽台フィールドワークの軌跡です。

実は、グループ全体は「イトーヨーカドー裏の丘」と「2番目の谷の上流」にも足を伸ばしているのですが、僕らはコドモ連れで、もたもたしている間に2度も置いてきぼりを食ってはぐれてしまい、見逃したのでした。

会長は脳内コンパスの持ち主で、GPSを持たなくても東西南北がわかるため、迷わずにさっさと行ってしまいます。おまけに、僕とは若干、街のチェックポイントが異なるので、こちらが予想するコースと違う方向へ行ってしまうことがしばしば。見失うとアウトです。

だから携帯電話買えってんだよ。会長。



(追記:オフィスにて)

登場人物: 新人1(女)、新人2(女)、若手(男)、石川。

新人1「赤羽どうでした?」
石川 「おう。ゲンちゃんと友達になったぜ」
新人1「地元の人ですか?」
石川 「本名はゲニウスくんだ」
新人1「外人さんですか?」
石川 「・・・ちょっとまて。わざとボケてんのか?本気?」
若手 「『げにうす・ろき』だよ。おまえ、ありえねーよ。学部からやり直せよ」

(新人1がグーグル先生に質問している間、罵倒が続く)

石川 「(若手に)じゃ、それ、最初に誰が言ったか知ってるか?」
若手 「オギュスタン・ベルクでしょう」
新人2「イーフー・トゥアンですよね」

君たち。3人とも、廊下でバケツでも両手に下げて立っていなさい。

2005年11月 9日

赤羽台は見どころてんこ盛り。

スリバチ・フィールドワークは、11月13日。今度の日曜日です。

10:30AMにJR赤羽駅西口を出て左、アピレ前に集合。15:30頃、JR赤羽駅にて解散予定。

以下は予習用の画像。


今回のフィールドは、武蔵野台地の北東端、赤羽台に抉られたスリバチです。


標高データのみの表示に1m等高線を重ねたもの。
画面中央、四方を囲まれた、四谷荒木町のような「真性スリバチ」が目を惹きます。


北面から鳥瞰した画像。


Google Earthによる空撮写真。
この大きさでは見えにくいのですが、この地区を横断する、いかにも人工的なS字カーブの「ノイズエレメント」が気になります。


カーブ部分。これはほぼ「廃線跡」に違いない。


昭和7年の地図にありました。
ここは陸軍の施設が集中していたようで、弾薬庫、練兵場、といった文字が見えます。
東北本線からの引き込み線がはっきり描いてありました。


跡地は住宅団地へ転用されたようですが、よく見ると、団地のブロックに明らかな「緑の濃密さの違い」があります。


地図を見ると、やはり、緑濃いほうは都営住宅で、あっさり明るい色のほうは公団住宅でした。
写真はGoogle Earthによる都営住宅のクローズアップ。菜園が見えます。典型的な都営スタイル・ガーデン。


地区の北は武蔵野台地の最先端。
崖上の端は道路になっていて、広大な荒川の氾濫原の眺めを楽しむことができそうです。


予想される北東への眺望。
(画面は航空写真と地形データにより生成されたもので、実際のものとは異なる可能性があります)


その地点から西に目を転じれば、富士山です。
11月13日の日没は4時半ごろ。この時間まで粘れば、富士山のすぐ右に夕日が没するのが見えるでしょう。
(ただし画面は航空写真と地形データにより生成されたもので、実際のものとは異なる可能性がありますが)

真性スリバチあり、廃線跡先行形態あり、起伏に富んだ地形あり、都営スタイルガーデンあり、富士山夕日眺望つき。

どうです。
この充実したコンテンツ!

(↑はしゃぎ過ぎ。いや、「見どころ」を見つけて嬉しくなっちゃったもので。)

でわ、日曜日にお会いできるのを楽しみにしております>各方面

2005年11月 7日

三鷹プラグ探検

土曜日。

妻が実家へ泊まりがけで出かけ、僕は自宅で子守り体制。

(以下、きわめて調布限定の地名の羅列で、この地域に親しくない人にはまったく不親切な内容です。←親切な予告)

調布の地図をなんとなく眺めていて(別に地上絵の構想を練っていたわけではない)、以前から気になっていた、調布と三鷹の市域境界に目がとまる。

野川公園に調布市が貫入していたり、三鷹市役所のすぐ南を境界が走っていて、三鷹市の総合体育館が調布市の土地にあったりし、調布と三鷹の境界は各所で錯綜している。今回、あらためて気になったのは、西つつじヶ丘に、三鷹市中原の一部が差し込まれるみたいに入り込んでいるところ。

よく見ると、この「三鷹プラグ」の先端に公園がある。

つつじヶ丘周辺は、国分寺崖線が大きく「乱れて」いる箇所である。入間川が崖を削り取って野川に合流しているような格好になっていて、そこにさらに小さな谷が絡み、「主崖」がどこにあるのかわからない。

入間川の谷(図中3。矢印先端がつつじヶ丘駅)は、天文台の横の大沢の谷(図中1)や、深大寺の谷(図中2)よりもずっと規模も深さも大きい。

「三鷹プラグ」は入間川の支流、というか、平行に流れる小さな谷に入り込んでいる。

図中Aが三鷹市でBが調布市。
左半分の地形が粗いのは、この地域を5mメッシュがカバーしていないため。後述。

谷間で、先端が公園。なるほど。こうなると地面の「誘い声」が聞こえる。
というわけで、やおらコドモらの身支度をして、ママチャリ3人乗りで西つつじヶ丘へ。



ものの数十分であっさりゴール。三鷹プラグ先端公園。


枯れかかっているものの、水をたたえた池。
四周よりも低く凹んだ、絵に描いたみたいな「スリバチ」です。会長。


石碑が。


それなりにキレイな水。

というわけで、プラグの形はそのまんま「湧き水と谷筋」であった。

境界の入り込み方は、三鷹市に帰属した村が所有していた水源とその流域を確保するという、水利権的な問題だったんじゃないだろうか。たぶん。市域確定のときには、さぞ紛糾しただろうと。


尾根を越えて、入間川沿いの丘道を下る。

道路に唐突に接した住宅の門壁を発見。


鉄骨のブリッジで、2階から入るようになっている。


下を普通に人が通ってる。すげー。

どうやら、もとは水路だった「緑道」のようだ。もともと「公道」だったらこんな構造物は作れなかっただろう。いや、でも、水路ならいいのか?エントランス部分の所有はどうなっているんだろう。


緑道から見上げた「プライベートブリッジ」。



ところで、今回から、こんなものをコツコツ作成中。

国土地理院の5mメッシュ標高データが23区内しかカバーしていないので、深大寺や京王多摩川や野川公園のような、「地形のおいしい箇所 in 調布」の詳細標高データがないのだ。1万分の1地形図を4枚、貼り合わせると、調布を網羅できる。


差し当たって2m等高線をトレース中。
「5mメッシュ詳細標高データ・多磨地区CD-ROM」が発売されて、カシミールで閲覧できるようになるまで、このアナログ地図を使い回すことにする。

2005年11月 1日

スリバチへのお誘い(11月13日)

表参道のケヤキ樹形ビルより、今回の新建築にあった「かんばんビル」のほうに好感を抱いてしまうのはなぜだろう(って、比べるなって)。

そういうわけで、以下、スリバチ学会長からの告知です。

■スリバチ学会フィールドワークのご案内

文京区フィールドワークに続く、次回の対象地は、スリバチ学会初、未知なる北区・赤羽台のスリバチです。

点在する赤羽台スリバチの中に、4周閉じられた真のスリバチを地図上で発見、
荒木町の他にも、正真正銘のスリバチが存在するのか。探索にでかけます。
(ハズレのスリバチだったらゴメンナサイ。)


日時:11/13(日)
集合:10:30AMにJR赤羽駅西口を出て左、アピレ前に集合 
    15:30頃、JR赤羽駅にて解散予定、
    
小雨決行・雨天中止、当日に判断がつきかねる場合は、石川の携帯へお問い合わせを。
(番号は、メールでお問い合わせ下さい。hajimebs@gmail.com)

当日飛び入り参加、途中合流・離脱、なんでもOKです。
ただし、数キロ徒歩で徘徊することになりますので、歩きやすい服装で。

参加資格はありません。どなたでもご自由に。
スペシャルゲストとして、地図マニア・タモリさん、アースダイバー中沢新一さん、地図博士・今尾恵介さん、天然コンパス内蔵の浅草キッドのお二人も参加予定です。
(スペシャルゲストについては、うそです。それ以外は本当です。念のため)

東京スリバチ学会
会長 :皆川典久
副会長:石川初(記)

追記:

おお。元永さんご参加です。
世田谷GEKO軍団方面、および六浦方面からの参加も期待されています。よろしく。
南青山方面の大学院受験生、チーム2DK、元ヌケミチスト、その他の皆様も、ご都合よろしければぜひどうぞ。