mei wenti(没問題)
もう10年以上も昔、セントルイスの設計事務所で研修をしていたときのことだったが、あるとき、僕の自席のすぐ近くに、新たにグラフィックデザイナーが雇われて座ることになった。やってきたのは東洋系の顔をした女性だった。「東洋系アメリカ人」というのは別に珍しくもなんともないし、僕らは挨拶して、すぐに軽口を交わし、それから1週間くらい、普通に英語でしゃべっていた。そうしたら、何かの拍子に相手のほうが、僕が日本人らしいということに気づき(しばらくお互いに気づかなかったというのも間抜けだったんだけど)、恐る恐る(という様子で)「あのー。。。日本人のかたですか?」と流暢な日本語で話しかけてきた。
後で知ったのだが、その女性(ユウコさん)は、ご両親が日本人の、日系2世だったのだ。僕も吃驚し、いきなり立ち上がって、あ、すみません、日本人なんです、イシカワと申します(ってそれは知ってるっちゅうに)、と、ほとんど名刺でも交換しかねない様子になり、親しい友達みたいに気兼ねのないやり取りをしていた僕らの間の空気は「敬語」にシフトし、その途端に、それまでの「英語的な物言いや態度」が横柄で馴れ馴れしく感じられてしまって、それからしばらくの間、じつにぎこちない会話をする羽目になってしまった。
この時の体験、言語は思考を規定するのだ、とつくづく思ったときのことは強烈に憶えている。いや、サピアさんウォーフさんの話のレベルじゃなくて、たとえば関西弁といわゆる標準語を使い分けているくらいの人なら実感されていると思うが、言語がモノの見方や考え方や態度を縛る、というよりも、そもそも「言葉」はその言葉を共有している文化圏の思考や生活や習慣の文脈のなかで成立し、それを前提にやりとりされているものだから、その言語に堪能になればなるほど、その言語を使う際に、使う言語を支えるOSが一緒に「くっついて」きちゃうのだ。関西弁で会話をすると、関西弁で考えるようになり、態度や物腰が「関西的」になる。これは、関東弁を関西弁に「翻訳」している水準では発現しない。
日本語は、その場に居合わせた人々の社会的地位の序列を見極めたうえで、自分がどのニッチに属しているかということを自覚してから、そのポジションに相応しい話し方を、その「自覚」を表現するという意味も持たせつつ発話する(そういう風にしか発話できない)という構造をしている。
英語の場合は、初対面だったり、目上の人に対したりでも、丁寧か砕けてるか乱暴か、くらいの表現の差はあるにせよ、基本的に「タメグチ」で会話を始められる。特にアメリカの英語と日本語を比べると、その特徴が際立って感じられる。
どっちがどっちというのはまあ、一長一短だ。僕は英語で初対面の挨拶をするのがいまだに苦手で、間を持たせられない。日本語はなら、ある程度合意された形式のやり取りで「お互い成熟した社会人ですな」という値踏み合いができたりする。そういう「手順を踏むことで余計な軋轢をスキップする」には、日本語はとても有用な言語だと思う。
しかしたとえば、「基本コンセプトのプレゼンテーション」などという局面では、英語のほうがやりやすい(ことがある)。英語というのは「論理的に畳み掛けるようにして相手を説得する」という行為に向くようにチューニングされているような気がする。結論が先に来るから会議も速いし。いや、決して英語を自在に操ってるわけではないんだけど。というか、持って回った微妙な言い回しができるほどの英語力が僕にないから、シンプルでストレートな表現しかできない、ということなのかもしれないけどな。
それで、目下、切実なのは「中国語的思考」なのだった。
当然なんだけど、まだ片鱗も掴めない。
なのに、相手の担当者の薛さんという、んもうまた非常な勉強家の若い女性が、どうやら日本語学習に着手したようで、送ってくるFAXに日本語が混じるようになってきたのだ。こんなふうに施主に出し抜かれるというのは精神的な危機だ。くそー。言語中枢をチャージするクスリとか、そういうのがあったら欲しい。まじで。


コメント
人間の根源的なパワーを使うしかありませんなあ。
エロです。エロ。The エロパワー。
薛さんを落とす勢いで勉強するしかありません。が
それによって種々の問題が発生しても当方は一切関知いたしません。
Posted by 黒庭師@架空庭園 at 2005年7月21日 12:09
つまるところそれか(違)。
Posted by 石川初 at 2005年7月21日 12:40
こんにちは。
かつて東郷健が「日本人は性的絶頂を迎える時『行く』というが、英語では『come』と言う。これは何事も自己に取り込もうとする醜い西洋人の思想だ」と言っていました。
なんか関係ない話ですいません(笑)
Posted by LSTY at 2005年7月21日 15:29
「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!」ってやつですな。>『come』
Posted by 石川初 at 2005年7月22日 13:50
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