雑草、安藤忠雄、マッサージ
穏やかな一日だった。
妻が仕事のために事務所へ出掛けたため、息子を遊ばせつつ、庭仕事に勤しんだ。
フェンスにからみついた蔓モノを刈り込み、庭の「非・雑草レンジ」を大幅に狭めて大々的に除草した。
雑草というのは、ある想定された区画のなかでそこに生育が期待された植物以外の植物のことであり、従ってその「生育の期待」の幅を拡げれば様々な種類の植物が「雑草ではない」に分類されるのである。我が家の庭は冬から春にかけての季節が寂しいので、園芸植物の景を補間すべく、いつも4月後半くらいまでは非・雑草レンジを広く取っている。そのうちに春が熟して、4月後半から5月になると、庭の「主役級」が伸びてくるため、レンジを一気に狭めて、コモチマンネングサとかカタバミとかハコベとかスズメノカタビラを「邪魔者」におとしめるのである。でも、いざ除草をはじめると、こぼれ種で増えて芽を出しているルドベキアとか、隣家から飛んできたらしいポピーとか、オダマキとかモミジの実生と?ニワゼキショウとか、雑草の「境界線」をなす連中がけっこう生えていて、しばし手を止めて迷ったりするため、けっこう時間がかかる。
除草を一通り終えてから、植え替えや株分けをして鉢を整理した。時期的にはとても遅い。以前は園芸の手引き書通りのスケジュールで作業しようとしていたのだが、妻の顧客の一人、サトウさんという「緑のゆび」の持ち主が、「ぱっと植え替えてたっぷり水をやって、お花自身が動かされたことに気がつかなければ、いつだっていいのよ」と事もなげに言うのを聞いて以来、杜撰になってしまったのである。もちろん、園芸には独特のセンスと才能が必要なのであって、僕のような「茶色のユビ」がこういうエキスパートの真似をしてもダメなのだけれども、ウチの植物は強靱な種類が多い(そうでないと育てられない)ので、おおむね大丈夫である。
夕方、街へ出て妻と落ち合い、息子の番を交代して美容室へ行った。僕はそれほど外見に気を遣うような生活スタイルをしているわけではないのだが、いつの頃からか、なんとなく「美容室」へ行くようになっちゃったのだ。
髪の毛が立つくらいに短くして、染めてもらった。染めてもらうと時間がかかる。けっこう長い間、鏡に向かって座っている。椅子の前に置いてくれていた男性ファッション雑誌が面白くなさそうだったので、美容師さんが読むプロ向けの雑誌ってどういうのがあるんですか?と聞いて、「しんびよう(新美容出版)」というのを見せてもらった。
「しんびよう」は大正8年創刊の、なかなか歴史のある雑誌である。カラー写真の多い、キレイな紙面の雑誌だ。新美容出版は他に、サロン経営専門誌「美容と経営」とか、美容学校出たての若い人が読む「トモトモ」なども発行している。他にメジャーなところでは「月刊ヘアモード(女性モード社)」というのもあって、おおむね、美容師さんはこのへんを読んでいるそうだ。
「しんびよう」6月号の特集は「クセ毛」。クセ毛の分類、タイプ別の対処方法、クセ毛を生かすカットやカラーリングのテクニックなどの記事がある。解説者はだいたい現役のトップ美容師で、蛯名晋也(pizzicato) とか、江原堅志(AKs)というふうに、氏名の後ろにサロンの名前がくっついている。「読者の広場」コーナーには、「独立1年目、苦労の連続です」とか「業務時間中にケータイする美容師仲間をどう思いますか」なんていう投稿が載っている。
こういう専門雑誌は、広告ページがコアで面白い。様々な美容機材や薬剤やツールの広告のなかに、ハサミの広告がいくつか載っている。どれもプロっぽくシンプルなデザインのハサミなんだけど、値段がすごい。安いものでも5万円くらい。聞いてみると、マテック・マツザキという老舗のメーカーの、ハンドメイドのセニング(刃が櫛状になっている透きばさみ)のトップモデルは50万円くらいするそうだ。僕がいつも担当をお願いするカダさんの愛用ハサミもマツザキの数年前のモデルで、7、8万円くらいのもの。もちろん、高ければよいというものではなく、自分の切り方に合うとか、手にしっくりくる、ということが重要なのだそうだ(そりゃそうだろう)。
ところで、いま、若い美容師の間では、安藤忠雄さんが注目されているそうである。どうしてかというと、美容界でいま非常に影響力のある植村隆博(DADA)という美容師が、「建築と美容には通じるモノがあり、安藤忠夫さんの建築から、しばしば、ヘアデザインのインスピレーションを得ている」という意味のことを言ったからだそうだ。ううむ。ヘアデザインとかファッションに比べると、建築ってワンテンポ遅いような気もするんだが。安藤さんの建築から、いったいどういうインスピレーションを得ているんだ。
「石川さんのお仕事は建築関係ですよね、たしか」
「・・・いや、僕は『外回り』だから。まあ、関係してるといえばしてるけど」
「会ったりすることあるんですか?」
「・・・・ないね」
「安藤さんの建築いいですよね。どう思います?」
「・・・・・・えーと。・・・・そうね・・(なんと言えばいいのやら)」
髪の毛は頭が寒いくらいに短くなり、帰りがけに駅前のマッサージ店に寄って「上半身30分コース」を受け、心身ともにぐにゃぐにゃになって帰った連休2日目であった。ふー。


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