2003年8月13日

「里山」の夏。

本日からレンタカーを借りて、義理の母の実家がある焼津へ。のつもりだったのだが、事情があって予定変更して、出発は明日になった。せっかく車を借りたので、午後からドライブに行くことにした。ちなみに午前中は眠っていた。だって、ほとんど明け方までワークショップのプレゼンのデータを作っていたのだ。データを高橋さんに送って、あとはお任せだ。シンポジウム当日には、吉田君の長男、廉(れん)くん(4歳、だったかな?)が仕上げてくれた模型も会場に届く。

多摩ニュータウンを見に行った。先日、ワークショップのためにざっと全体を見て回ってきたのだが、その際に見落としたところを重点的に回ってきた。特に見たかったのは、ニュータウンに隣接した、町田市の小山田町あたり。航空写真や衛星写真を見ると、ニュータウンの南側一帯に、そこだけ取り残されたようにごそっと緑のカタマリがある。多摩丘陵全体の中でも一番面積の大きな「緑」である。「都市」によってほぼ完全に「制圧された」格好のニュータウンの敷地との対照が際だっている。

このあたり:
http://www.mapfan.com/map.cgi?ZM=8&SbmtPB=MAP&MAP=E139.24.11.7N35.36.13.9&Func=INDEX&&MapSize=1

車載のカーナビは、ニュータウンの中央を通って尾根を越えて行く道を指示した。唐木田のあたりから町田側へ入る。両側に林立していた中高層の住宅がなくなり、道が急に細くなって、ほとんど1車線になり、雑木林の中を蛇行し始める。「不法投棄禁止!!」の看板が並んでいる。確かに、誰も見ていなそうだし、位置的にも街のちょっと外部(城壁のすぐ外)、という感じだし、不法投棄を誘う環境だ。

しばらく行くと、視界が開けた。僕らは車を路肩に寄せて停めて、思わず外へ出た。いやもう、びっくりである。雑木林の尾根筋に挟まれて、農道と畑のあぜ道が等高線を描き、分かれ道に大きなクヌギの木がそびえ、蝶々が群がっている。谷戸の下のほうには点在する農家の向こうに水田が見える。セミの降るような声以外は何の音もない。絵に描いたみたいな「里山」だ。都心から30kmくらいしか離れていないこんなところで。いや、こういう、新しい街と農村が接している光景は、多摩みたいな郊外の前線では最近まで珍しくなかっただろうし、ニュータウン開発前の永山や南大沢はこういう光景だったのだろうけれど。

思わず後ろを振り返る。尾根ひとつ隔てた向こうには、イタリアの山岳都市やらアウトレットモールやらパルテノンやらNシティやら環境共生やらバリアフリーやら何やら、東京のトピックを抽出して拡大コピーしてコラージュしたみたいな「ニュータウン」がいまだに建設中なのだ。

僕らはえてして、経済的・合理的に建設し、かつ、できるだけ汎用性のあるものにするために、土地を、物理的にもイメージ的にも「リセット」して、理想的な内容を考えようとする。計画の最初の段階の建築模型が白いスチレンボードで作られるみたいに。でも同時に「場所性」への抜きがたい欲望も併せ持っていて(ここに、「風景」というものの本質があるのだが)、そういう場所性を獲得しようとしてなんか強さのあるストーリーを添加しようとする。「イタリアの山岳都市」なんていう、南大沢に課された「テーマ」は、好んで消したはずのどうしようもないローカリティを迂回しつつ、「建築」を「家」にするみたいに、「ニュータウン」を「タウン」にしようとするストラグルなのである。

でも考えてみれば、土地の「どうしようもない固有性」を解除して、合理性を最大化して、計測可能な「量」に還元するという意味では、農耕なんてまさにそうした操作を土地に対してずっと行ってきたのだ。だから、僕らが「里山」に惹かれる心理は、土木構造物の佇まいに惹かれる理由と通じている。里山の表情は、量の追求(収穫高)と、その土地のどうしようもない事情(たとえば地形)との拮抗状態である。谷戸の農地と、ニュータウンの道路や橋梁や団地群との違いは、合理性の最大化を支える「技術」のスケールの差だろうと思う。

ただ、ニュータウンを見ていて神経に障るのは、「場所の強度」の表現が街区ごとにぜんぜん違うところである。30年もかけて作られているものだから、それぞれの時代のホットなテーマの目まぐるしい見本市みたいなおもむきになっていて、逆に全部が嘘っぽく見えてしまうのだ。たぶん、こうした街の風景には、それを鑑賞するに適正な「解像度」があるのである。南大沢に住んで、ほとんど毎日「山岳都市」だけを眺めて生活している人にはそれほど違和感がないのかも知れない(それはそれで、そういうメンタリティになっちゃうのはイヤだ。多摩ニューのなかでベルコリーヌ一帯だけは値段が落ちていないそうだけど)。

小山田の谷戸を見に行くには、ニュータウンから山を越えて行ったほうが、より一層その「落差」を楽しめる。「多摩ニュータウン通り」を行き、「島田療育センター前」交差点を左折、尾根道路に行き当たったら右折して、大妻女子大の角を左へ入り、あとは道なりに行ける。

帰りは、多摩ニュータウン通りをよけて、街区内幹線をたどりながらニュータウンを縦断すれば、柚木の荒涼とした未利用地、南大沢のイタリア、Nシティの安っぽいメーカー住宅に木製トレリス回したむかつくガーデニング系戸建て住宅地、鶴牧の「都市住宅」、諏訪や永山の初期の「団地群」、長峰の芝生に高層が屹立する「ランドスケープ系」、と、ニュータウンの「年輪」を鑑賞できます。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://fieldsmith.net/mt/mt-tb.cgi/37