2003年5月 6日

地上のディバイス

注文してあった、MapSource日本詳細地図のCDが届いた。これをPCに入れると、eTrex Legend-Jと連動して、日本全国の2万5千分の1の地図を表示したり、地図(の一部)を転送したり、ルートやポイントを作成したり、トラックログを保存したり、ということができるのだ。

ただし、これはMapSourceじゃないとできないわけではなく、ルートやポイントの作成ならばアルプスの「プロアトラス」という電子地図のほうが楽にできるし、ログの保存や描画ならばカシミール3Dでもできる。特にカシミールはログの「再生」を立体で行うことができるので、飛行機に乗ったときの記録なんか、ちょっと壮観である。しかも、プロアトラスのフルカラーの地図画面と違って、ベクトルデータのMapSourceは地図としてはなんか無愛想だし、道路はただの黒い線だし、カーナビの画面みたいである。

それでも僕がMapSourceを気に入っている点は、「全国あまねく」2万5千分の1の地図が格納されているという点である。僕が使っている「プロアトラス2002全国DVD版」は、格納されている情報が都市に集中している。東京などの都心部は1000分の1で住宅地図並の詳しい情報が入っているけど、たとえば「山形県西置賜郡叶水」なんていう地域は20万分の1の表示までしかできない。表示すべき情報が都市に集中していて、ユーザーは主にそういうのを使う、ということが想定されているのである。まあそりゃそうだろう。

一方、MapSourceの地図は、全国すべからく2万5千分の1である。だから赤坂の地下鉄の出入り口は判別できないけれども、山形県西置賜郡叶水(ちゃんと「基督教独立学園」まで表示される)とか新潟県十日町市大字馬場乙とかも、都心と同じ縮尺で出てくる。うむ。この、街も山間部も広く浅く、フラットに扱うクールな態度がなんか、好感を持ってしまうのだ。いいぞ。

そこで、MapSourceを早速インストールし、全国をフラットに眺めて悦に入っているのである。地図フェチとして、ちょっと幸せだ。

渡辺保史氏が「情報デザイン入門」(平凡社新書、2001)で指摘しているように、「地図」は決して現実の地形そのものを平面に移し替えたものではなくて、土地の様々な特徴や属性からその地図の編集意図に沿ってピックアップした情報を抽象化して2次元に表現した「情報デザイン」である。

だからどんな地図も、その土地の「ある一面」しか伝えないし、何を伝え、表現することに重きが置かれるかによって地図はぜんぜん違う様子のものになる。たとえば道路マップと鉄道路線図と現況植生図がぜんぜん違うように。

(Design With Natureのレイヤリングは、地図を作成する際の『抽象化』を逆に辿って、現実の土地そのものへ遡行しようとする手法だと言える。余談だけど)

そして、現実の土地からの情報の取捨選択に抽象化という「手続き」が行われる以上、その地図が機能するためには、その「手続き」のルールが共有されている必要がある。つまり、地図を読むためには地図の言葉に通じていないといけないのだ(あたりまえだけど)。だから、特に一般むけの市街地図などは、その地域の社会制度をよく反映する。アメリカの市街地図が街路のインデックスみたいな様子なのに対して、日本の市街地図は街区の配置図という感じだが、これはそれぞれの「住所」の考え方の差である。

また、現実の土地は、道路も建物も、長い目で見れば地形でさえ、どんどん変化してゆく。だから地図は、それが作成された時点での「記録」であって、古い地図と見比べたり、実際の土地と見比べたりしてその土地の「変化」を目撃するという「読み方」もできる。実に、地図はハマると深いのだ。

でも、知らない土地で地図を片手に街を歩いていたりするとき、時折、自分が「地図」と「現実の土地」との中間に浮かんでいるような、不安感というか、奇妙な違和感に襲われることがある。地図には広範囲の市街地の形や道路が描かれて、自分は自分の位置を把握しているつもりで歩いているけれども、実際に自分が目の当たりにし、自分の足で感じる範囲はとても限られている。なんかこう、地図の抽象性と、自分が歩いている土地との隙間に折り合いをつけかねて、自分の体験を取りこぼしてしまっているような、惜しいような、言いたいことがうまく言えずに悔しいような、なんというか「地図的欲求不満」を感じてしまうのだ。

で、GPSが「効く」のはそこである。eTrexが表示するのは、そこが誰の土地なのか、道路なのか川なのか森林なのか、山なのか海なのか砂漠なのかということにまったく関係なく、単に「自分が地球上のどの座標にいるのか」というプリミティブな事実である。eTrexを介して、自分の「地図的視点」と「立ち位置」はほとんどダイレクトに接続している。その意味では、地図機能をもたない「素」のeTrexのほうがこの「接続感」は味わえる。Legend-Jみたいに詳細地図が表示されちゃうと、つい地図を見てしまう。まあしかし、これは実際に動き回る際に使う「補助線」みたいに思えばいいのである。おまけに表示画面が小さいから、自分の立っている場所の近くしか表示できないため、「乖離」が少ない。実に僕の心を豊かにする装置なのである。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://fieldsmith.net/mt/mt-tb.cgi/16

コメントする